Jun潤

雄獅少年/ライオン少年のJun潤のレビュー・感想・評価

雄獅少年/ライオン少年(2021年製作の映画)
3.9
2023.06.12

(たしか)予告を見て気になった作品。
ジャパニメーションだなんだと言われてはいても、なかなか侮れない中国産アニメーション。
Twitter上で新海誠監督も絶賛していたことからも完成度の高さには不安もほぼ無いでしょう。

長い歴史を持つ中国の伝統芸能、獅子舞。
田舎にて、広州に出稼ぎに出ている両親を待ちながら祖父と共に暮らす気弱で病弱な少年・チュンは、同じ村の屈強な獅子舞選手たちに馬鹿にされながらも獅子舞に対して憧れを抱き続けていた。
旧正月を間近に控えたある日、村に現れた華麗な獅子舞を魅せる自分と同じ名前の少女・チュンから赤い獅子頭を譲り受けたチュンは、広州で開かれる獅子舞の大会について知り、両親に自分の勇姿を見せるために出場を決意する。
同じ村のマオ、ワン坊と共に出場を目指すチュンだったが、金も無ければ技術も無く、村の選手たちには馬鹿にされ、出鼻を挫かれる。
しかし己の内なる声に従い、虐げられ負け組となっている自分たちを勇猛な獅子に変えるため、決意を改める。
チュンたちは、同じ村で魚屋を営んでいる元獅子舞選手のチアンを無理矢理師事する。
チアンは生活のために獅子舞を辞めたことを悔やんでいたが、夢に突き進んでいた頃のチアンの姿を想う妻アジェンの後押しもあり、チュンたちを指導する。
3人は鍛錬を重ね、本戦への出場が決まるが、チュンの父が事故に遭い意識不明の重体になってしまったことをきっかけに、チュンは広州へ一人出稼ぎに出る。
働く日々に忙殺され、もう舞うこともできないと思っていたチュンだったが、偶然広州でかつて獅子頭をくれたチュンと再会する。

ほうほう、これはこれは、、なるほどなるほど。
予告を見たかどうかすら怪しくて、ポスターの感じからファンタジー世界観かと思いきや、現実を舞台にした、少年たちを始めとして何かを諦めてしまっている人に向けたハートフルでコミカルかつ、努力して夢を叶えようとする人たちの奮闘を描いた王道ストーリー。

良かった点に入る前に少し気になったところを。
やはり一番は時系列ですかね。
大会まであと何日かというのが作中で明言されていなかったので、話の構成として鍛錬の期間をいくらでも設けることができるし、印象として修行期間やチュンの労働期間が何年もあったかのように感じてしまいました。
また、チュンが広州で獅子舞の鍛錬をしながら働いているところから始めればもう少し良かったものを、良くも悪くも獅子舞の修行を始める前のところから描いていたし、チュンの秘めたる才能的な設定も無かったので、気持ちと少しの修行期間があれば獅子舞が上手くなるかのような、ご都合主義的に見えてしまったことも気になりました。
あとはコメディシーンの入り具合ですかね。
アニメーションとの相性の良さもあって、キャラの動きと合わせたコメディも良い方向に効いていた場面が多かったのですが、変なタイミングで挿入されていたところもあって、そっちの方が悪目立ちしてしまっていた印象です。

さて、ここからは褒めちぎります。
まず海外産アニメーションを見ていると、国産アニメの早熟加減というか、アニメコンテンツの歴史の中で早いタイミングから王道路線を築いてきたり、一癖も二癖もあるアニメが多く制作され続けていたりすることもあって、逆に海外の王道作品が殊更新鮮に感じますね。
果たして日本産アニメにとってそれが良いことなのか悪いことなのか。
とにかく今作はストーリーもキャラクターもわかりやすく王道で感情移入もしやすく、観ていてとても安心感のある作品に仕上がっていました。

冒頭で触れられていた、獅子舞を構成する踊り、武道、音楽の要素たちが、それぞれ幻想的な背景作画、アクションのようなキレのあるキャラの動き、ストーリーを盛り上げる劇伴でもって非常にアニメーションらしい出来栄えになっていました。

今作は「諦め」が大きなテーマだったかなと思います。
経済面や性別の問題などで諦めざるを得ない状況であっても、心の声に従って行動に移す様はチュンたちの様子からバチバチに伝わってきました。
また、日々の細かい行動を鍛錬として積んでいても、どうしても越えられない高い山の存在に対し、奇跡という人間の感情や行動の及ばないもので到達することができる、超えられないと諦めているように見せて、みんな心のどこかで奇跡が起きることに期待をしていることが描かれていました。
高い山の象徴たる最も高い足場に辿り着くのが獅子頭だけであったり、敵味方や勝敗に関係なくチュンを応援する観客たちの様子で、奇跡と実力のバランスが良い塩梅で描かれていました。
Jun潤

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