真田ピロシキ

雄獅少年/ライオン少年の真田ピロシキのレビュー・感想・評価

雄獅少年/ライオン少年(2021年製作の映画)
3.5
現在書いてる同人小説の舞台が主に中国なので、その描写に多少なりともディティールを足せないかと思って鑑賞。しかし困ったことに本作がいつ頃の中国として描かれているのかがよく分からない。主人公チュンの住む村はとても牧歌的なカンフー映画に出てきそうなところでスマホなど現代的なガジェットは姿を見せず固定電話で通話しており、川の水で食べ物を冷やすようなシーンもあり相当昔、しばらく80年代くらいなのかと思った。チュンの両親は都会に出稼ぎに行っておりそこは建築ラッシュの模様でスマホ以前の携帯電話を使う姿が見え、それなら2000年代くらい?と思うが、終盤の街並みなどは現代に感じられて一定しない。これは自分のイメージする中国が今はもう北京などの裕福な都会がほとんどで地方との格差がどの程度なのか知らないのがあり、また幅広い世代が受け止めやすいように時代設定を曖昧にしたのかもしれないが、その辺を気にして見ていたので若干の戸惑いを覚えさせられてしまった。

オープニングアニメーションからしてキビキビ動いていて期待を高められさせ、本編に入ると3DCGアニメーションのクオリティに目を見張る。逆光の差し込みやカップの描写などはときどき実写に思えるほど。一人称視点で村を駆け抜け、竹の足場をしならせながら繰り広げられる獅子舞格闘戦の躍動感とカメラワークのアガりっぷりには目を見張る。ディズニーピクサーやドリームワークスにも遜色しなさそうな代物で、近年評判を聞く中国アニメーションのレベルを存分に体感できる。それにしても獅子舞がこんな刺激的な催しとは全く知らなかった。

この映画に興味を持ったのは同人小説のフィードバック以外でも物語のテーマにあって、貧乏でひ弱で自信の持てない少年の逆転にあり、その手段である獅子舞も体格と家庭の資産に恵まれた者に優先されている機会の不平等にどう切り込むのかを期待していたのだが、そこはあまり消化されてなく感じた。結局のところスポ根的な根性だけであるし、事故で植物状態になった父親も優勝の奇跡で解決は、あそこに登り詰めることがあり得なくて諦めなかった結果だと分かっているので物語のカタルシスとしては納得いくものの安易な感動ものとも見える。全体的に感傷的なシーンも多い。だからこそ本国で大ヒットしたのかもしれないが。

チュンを獅子舞の道に引き込んだのは同じ名前の女性チュンで、2020年代の作品なので彼女はきっと男性のものとされる獅子舞に切り込むジェンダーロールを意識した役どころと思っていたのだが、最序盤を除けば出番も少なく拍子抜け。女性の名前をつけられたひ弱な男チュンのジェンダーにもこれと言って踏み込まなくて、この程度に当局が睨みつけるとは思えないが、中国もやはり日本同様あまり期待するものじゃないのだろうか。師匠であるチアンの妻アジェンも気の強い女性ではあるが夫を支える健気な人で新しさはない。日本語吹き替えではインボイスに公然と声を上げる甲斐田裕子さんなので芯の強さを増されているのは日本人にはサービス。また女チュンにしても勝利トロフィーとしての存在にはなってないので、そこは良かったと思えた。隣の男は彼氏でいいのよね?どうせ兄弟や従兄弟じゃないのと思いながら見てたのに特に説明もなかったのでそう思ったけれど。

地元のガタイの良いライバルチームはカツアゲはするわ獅子頭は壊すわフクロにするわで非道の限りを尽くしておきながら本戦の態度はムシが良すぎる。良すぎるのだけれど、対立していた者が実力を認めて深い仲となるのは大好物なのでオッケー。私の同人小説がまさにそれで書いていますので。最後に言うと最初に書いた通り時代設定が曖昧に感じて現代中国のリアリティは分からなかったので、あまり小説の参考にはならなさそうだった。