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ナニーのhasisiのレビュー・感想・評価

ナニー(2022年製作の映画)
3.5
米国。北東部に位置するニューヨーク州。同国最大の都市ニューヨーク。
アイシャは、セネガルからの不法移民。
地元に残した息子を呼び寄せるのに充分な資金を稼ぐため、ナニーの仕事をして暮らしている。
ストレスと孤独の中、悪夢のような幻影が現実を蝕みはじめていた。

監督・脚本は、ニキャツ・ジュス。
2022年にAmazonプライム・ビデオで公開されたホラー映画です。

【主な登場人物】🛫👩🏿‍👦🏿
[アイシャ]主人公。
[アダム]雇い主・夫。
[アナンシ]?
[エイミー]雇い主・妻。
[キャスリーン]マリクの母。
[サレイ]美容師。
[シンシア]ロング。
[ソニア]ドミニカ出身。
[ニッキ]店頭窓口。
[ビショップ]マリクの息子。
[フローレンス]ショート。
[マミ・ワタ]?
[マリアトゥ]親友。
[マリク]ドアマン。
[ラミン]息子。
[ローズ]世話する幼女。

【感想】🏙️🛝⛲🗑️
ジュス監督は、1982年生まれ。ジョージア州出身の女性。
大学で生物医学のエンジニアを目指すも、途中で映像制作に転向している。
親の影響で、主に難民や移民の女性の苦労を描いている。
短編を5本撮って、今回が長編デビュー作です。

[ナニー]👧🖍️🥘
母親に代って子供を育てる女性。
ベビーシッターと違い、洗顔や食事の世話だけでなく、テーブルマナーや口の利き方など、幼い子供の教育全般を受け持つ。
なので、ある程度の教養が求められる。

💎美しさを重視した映像。
低予算で出来るだけ綺麗に映るように工夫されている。女性らしく、美へのこだわりは相当なもの。
ホラーらしい不安になる暗い映像で、闇を照らす光点の過剰な使い方が印象的。絵画のようなシーンが多い。

🌍アフリカタイム。
ニューヨークを舞台にしているが、アフリカの草原を思わせる穏やかな時間が流れてゆく。
『本当にあった怖い話』の短編1話分程度の内容を、90分かけて展開させると考えればイメージしやすいかもしれない。

物語は日常を題材にしている。他人の生活をのんびり覗きみて、穏やかな時間が流れる。環境映像に近いものがある。
移民が抱える問題が描かれ、見ている側に伝えることに重きが置かれている。

映画が好きな人がつくるマニアックな作風であり。ありきたりな娯楽作品に見飽きている人ほど魅力を感じるだろう。
一方で、高いドラマ性とは相反するため、一般の評価が低い理由も分かる気がした。

砂が崩れるようなポスターが過剰に感じた。正直に言えば、恐怖心をあおるポスターの影響で見るのが遅れた。
「アフリカから新たな恐怖体験が」のような印象を受けるけど、人間ドラマと心理的な恐怖が中心であり、奇病で肉体が溶けるような映画ではない。
『仄暗い水の底から』が好きな人だったら気にいるかも。

🧽ナニーの目線。
現代的な壊れた家庭で働いている。
豊かな人達が落ち入りやすい不幸を、雇われている側の視点で見つめている。
ステレオタイプな富裕層ではなく、中間層とグラデーションしている微妙なラインが描いてあり、生活感がある。
監督の友人や、仕事相手がモチーフになっているのだろう、先進的な夫婦の寂しい家庭の内側が上手く捉えてある。

アイシャが雇い主に人形のように扱われたり、足元を見られないように毅然と立ち向かったり。子供の頃から親しんだ世界を題材に、7年温めた脚本だけあって、しっかり自分の色に染まっている。

🌗光と影。
台詞が少なく、都会で1人暮らしする女性の寂しさが伝わってくる。
母国に息子を残し、こつこつ働いて仕送りを送る。
彼女の抱える将来への不安は相当なものだろう。

ベースは心労が溜まってゆくアイシャの影の部分が描かれるのだが、
合間に移民のコミュニティを中心とした明るい光の部分も描かれている。

女性の本音を担当するキャラたちが映画を明るく彩ってくれる。おしとやか一辺倒ではなく、下世話な側面も描けるので深みがある。
暗い夜と、明るい昼間のコントラストが共存している映画。

🛀🏼フェイズチェンジ。
終盤に入るとガラッと印象が変わって時間の流れが速くなる。
やっていることは序盤、中盤と何も変わらないのに、恐怖体験になる不思議。
ここまで丁寧に日常を描いてあるから、色々と考えさせられて凄みが増している。
時間の流れを操るのが巧みで、視聴者を楽しませるのが上手い。

🧜🏿‍♀️怪異と人怖。
表現はストレート。ホラーと言うより、うつ病で見える幻影のような存在。
物語性よりそこから見えてくる、監督の価値観が怖い。

関わりたくない、と思わせる人の怖さがある。
わたしは、毎年の評価が高いホラーは一通り目を通しているけど、恐怖を感じることは、あまりなかった。
けど、これは怖くて見ていられない。

『呪詛』もそうだけど、残酷描写より、撮っている人の持つ狂気の方に心が動くらしい。
友人の名言「幽霊より酔っ払いの方が怖い」を思いださせる。
確かに話が通じない状態の他人ほど怖いものはない。

現実で起こりえるイベントや、日常と紙一重のところにある心理状態。
本作に登場する人物と似ている知り合いが違って見えてくるだろう。
怖すぎて笑えてきて、これからは周りの人間が追いつめられないよう、優しくなれる気がした。

🌊落ち。
真相が分かってすっきり感が得られる。
クライマックスからさらにテンポアップして津波のように押し寄せてくる。
悲しみと喜びが短時間に凝縮されて、鑑賞後は複雑な心境にさせられた。

【映画を振り返って】🛬🙍🏿‍♀️
映像の美しさへの執拗なまでのこだわりと、視聴者の心理状態を操ってくる手法がスピルバーグによく似ている。

😍吸引力。
監督の女性としての魅力が映画に滲みだしていた。
アイシャは、子供に愛情があり、同じ目線で世話するのが上手。性格は大人しくて控えめ。まるで男性が描く理想の女性のような内面をしている。
男にモテるのだが、願望を描いているような不自然さがなく、経験が基になっているのだろうと想像させる。

同時に、他人に合わせるのが上手な性質には、鬱憤が溜まりやすい弊害もある。
ホラーに必要な自己顕示欲や殺意との相性もよく、生き残るためのしたたかさを含め、見ていると引き込まれるような感覚に陥った。

もっと知りたい欲求が沸き上がるのだが情報が無く、胸を掻きむしるよう。まるで映画に恋しているようだった。
(春だな🌸)
飽きやすいわたしにしては、次回作も楽しみに思える稀有な存在に。
(どうして、ホラーの有望新人ばかり気になるのか謎)

2022年のサンダンス映画祭で、審査員グランプリを獲得。ソニーピクチャーズクラシックや、ネオンと配給権が争われたのも頷ける。

ジュス監督は、新作の長編。
それと『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』の続編。
さらに、彼女の短編である吸血鬼映画『Suicide by Sunlight(日光による自殺)』の長編化が予定されている。
どうやら、大勢の投資家が彼女の魔法にかけられてしまったらしい。
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