真魚八重子

ナニーの真魚八重子のレビュー・感想・評価

ナニー(2022年製作の映画)
3.5
アフリカ系アメリカ人の、女性映画監督ニキャトゥ・ユース。黒人の女性監督としては二人目と、彼女が教鞭をとる大学のバイオグラフィに書かれていた。
本作はアフリカ移民の女性アイシャが、アメリカに来て子守の仕事をする。いつかセネガルに残した息子も呼び寄せるのを夢見て、懸命にお金を稼ごうとしている。しかし雇い主の女性も、会社員として精神的に崩壊寸前の忙しさで、アイシャの給料や残業代を何度も払い忘れ、帰宅時間の連絡もくれないので、アイシャはセネガルの息子との電話もままならない。

アフリカ系アメリカ人の話ではなく、完全にセネガル出身のアフリカ人女性の物語で、音楽や衣装がアフリカンで楽しい。アイシャのファッションがとても魅力的。そして、彼女が囚われる幽霊や幻覚もアフリカルーツのものだ。アフリカの中にもいろいろな国があり、アイシャに新しくできた恋人は別の国出身なので、同じアフリカ大陸でも食事が全然違ったりする。

非常に哀しい話。元凶がどこにあるか、というのを考えると、決して雇用主の女性でもないのがわかる。彼女も「男性と同じ仕事をしても、仲間には入れてもらえない」「出世しても給料が変わらない」と嘆く。アイシャもそれに取り合っている精神的余裕はない。

ナニーの負の連鎖で、アイシャが面倒を見ている白人の少女も、ちょっと目を離すと、家の中でもすぐ姿を消してしまう。当然、アイシャの息子もセネガルでいとこがナニーをしてくれているが、活動的な年ごろで困っていることだろう。ラストに回復への希望と、アイシャの身をもって追体験する弔いの習慣のカットがあって、報われる。
真魚八重子

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