南

グッド・ナースの南のレビュー・感想・評価

グッド・ナース(2022年製作の映画)
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医療従事者という立場や専門知識を悪用して、患者を故意に殺害する者のことを「ヘルスケア・シリアルキラー」と呼ぶそうだ。

この映画をきっかけに調べてみたが、相当な数の殺人看護師や殺人医師が存在した、いや、存在するらしい。

その動機も一様ではない。

「この患者はもう助からない」「殺すのが慈悲だ」と強引な理屈で患者を安楽死させるドクターキリコ型。

「他者の生殺与奪の権利を自分が握っている」という万能感に酔い、支配欲を満たすサディスト型。

今作の犯人チャーリーはといえば、表向き物静かで真面目な好人物。

推定400人以上の患者を殺害したにも関わらずその動機は曖昧で、「誰も止めなかったからやった」とだけボソリと呟く。

大義もなく単純作業で人を殺せるという麻痺し切ったメンタリティは、沢山のユダヤ人をガス室送りにした動機について「命令されたから従っただけ」と答弁したナチスの小役人アイヒマンを思い出させる。

また、チャーリーが殺人を繰り返しているという疑念を抱きながら、彼が勤めた病院全てが保身に走り事実を隠蔽し続けたという事実も同じくらい怖い。

事なかれ主義が事態をどんどん悪い方向に向かわせるという教訓も、イギリスによるドイツへの宥和政策の結果を見るようだ。

エンタメ性/ドラマ性を抑えた静謐な作りだからこそ、いともたやすく行われるえげつない行為の恐ろしさが際立つ映画だった。
南