たにたに

大いなる自由のたにたにのネタバレレビュー・内容・結末

大いなる自由(2021年製作の映画)
4.1

このレビューはネタバレを含みます

【抱擁の温かさ】2023年63本目

渋谷TOEI跡地。
オープン間もないBunkamura ル・シネマの初配給作品。

第二次世界大戦後間もない1947年。
刑法175条が改正された1968年。
そして主人公ハンスがその175条違反で投獄されていた1957年。

この3つの年代を行き来しながら、半同性愛法の苦しみにもがき苦しむハンスの姿を映し出す。

公衆トイレで人目を忍んで男性に奉仕するハンスの姿が映し出されるオープニングから始まる。ここには同時に投獄されるオスカーの姿もある。
四角い窓のようなところから覗き見しているような演出であり、映し方は違えども、覗き穴から覗くという演出は作中で幾度となく登場する。
このシーンと、175条が改正された後のゲイバーでの堂々と写し出されるラストの性描写シーンはおそらく対比して描かれている。

ハンスとしては、同性愛者として堂々として良い世の中に移り変わった。しかし、彼の心の拠り所はすでに"獄中にある"という、得もいわれぬ状況になることが今作のキーポイントだ。

獄中映画となると、「ショーシャンクの空に」との対比は避けられない。
主人公のハンスと妻殺しの罪で無期懲役のヴィクトルの関係性は、ティム・ロビンスとモーガン・フリーマンの絆と近いものを感じる。
大いなる自由では友情を飛び越えた絶妙な関係性が構築され、刑務所を出た先の未来が決して明るいものではなかったという意味で、ショーシャンクとは相反する内容となった。
つまり、刑法の改正で自由となったはずの身上が、長年虐げられてきたハンスにとっては意味のないことであったし、彼にとって心許せるパートナーがいないことの方が不自由なのである。

タバコを買って、宝石店のガラスを割るラストシーン。
そもそもこの刑法175条自体が、不条理であったことをひしひしと感じさせるのである。
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