三四郎

夜ごとの夢の三四郎のレビュー・感想・評価

夜ごとの夢(1933年製作の映画)
3.5
テンポが驚くほど良い。リズムに乗った切り返しの多様、そこに科白画面が挟まれ、どんどんどんどん映像と筋が展開し流れていく…実に流麗なタッチ。観ているこちらもどんどんどんどん映画に惹き込まれていく。
切り返しの効果を高めているのは、構図やキャメラ、そして成瀬監督の腕だけによるものではないだろう。俳優陣のその表情!表情だけで何を考えているのか、その心が読み取れる。栗島すみ子は決して美人ではないように思うが、瞳の奥に何か秘めたものがあるといった表情で、その演技力には目を見張るものがあった。

仕事はともかくしっかりした人のところへ嫁いだらどうかと言ってくれる隣の深切なおばさん。
続くカットで、栗島は髪をかきあげる。キャメラが斜めに傾いている、構図が歪んでいる…これは栗島の前にある鏡から捉えたショットだ。しかし、その壁に掛けられた鏡の「斜め」だけでなく、栗島の世の中への諦念と擦れた夜の女の心情をも表現している心理描写と言えるだろう。

人情を感じる映画だった。
そして全編通して「鏡」が重要な映画だったように思う。
最後のシーンは、世間の噂話、何事もなかったかのようにまた動き始める世の中…と解釈していいかしら。
三四郎

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