ストレンジラヴ

オリエント急行殺人事件のストレンジラヴのレビュー・感想・評価

オリエント急行殺人事件(1974年製作の映画)
4.2
「もうひとつあるのです…非常に複雑な答えが」

イスタンブールで事件を解決した名探偵エルキュール・ポワロ(演:アルバート・フィニー)は、新しい事件のためロンドンに戻る道中オリエント急行に乗車する。車内でポワロは実業家ラチェット(演:リチャード・ウィドマーク)から相談を受けるが、ラチェットへの不快感から断る。その後大雪のため列車は立ち往生するが、車内ではラチェットが刺殺体で発見される...。
ミステリーの女王アガサ・クリスティによる、奇抜な結末があまりにも有名な同名小説をシドニー・ルメット監督が映像化。アルバート・フィニー、ローレン・バコール、ショーン・コネリー、ヴァネッサ・レッドグレーヴ、イングリッド・バーグマンなど錚々たる面々が集結した本作は、まさにミステリーのオールスターゲームと言っていい。僕の絶対に叶わないワガママを言わせてもらうならば、本作の演出でデヴィッド・スーシェのポワロを観たかった。スーシェ版ポワロは大好きだし、最も原作に近い外見のポワロはスーシェだと思うのだが、如何せんあちらは雰囲気が暗すぎて辛かった。先ほども言ったようにこれはオールスターゲームであり、不謹慎だがお祭りなのだ。だから明るく華やかに映像化して欲しいと思う。
さて、クリスティ自身が嫌々ポワロを書いていたこともあり、熱演の割に何もコメントをもらえなかった可哀想なアルバート・フィニーだが、性格面だけ触れるならばこちらのポワロの方がより原作に忠実かと思う。つまりスーシェの外見でアルバート・フィニーのような振る舞いをしてもらえると文句なしだが、これはこれでそんなに悪くない。シリアスな進行の裏で無駄に着飾った寝巻き姿を披露したり、コメディリリーフとしてのビアンキ氏やコンスタンティン医師との掛け合いでほどよく息抜きできる。で、絶対に触れないといけないのがサー・リチャード・ロドニー・ベネットの劇伴。個人的には映画音楽の枠を超えて「遠すぎた橋」と並んでヘビロテしている劇伴である。殺人事件の曲なのに豪華絢爛で聴くだけでワクワクする。ベネットの劇伴に始まりベネットの劇伴に終わる...ルメット監督の完璧なまでのお祭り進行に観る者は酔いしれるのである。
動機如何で罪は軽くなるのか?この非常に重い問いかけをある者は明るく描き、ある者は暗く描いた。もちろん犯罪は犯罪で、許されてはいけないと思う。だが同時に、これはお祭りでもある。お祭りに来た者たちは...恐らく、明るい方を好むでしょうな。