ShinMakita

今夜、世界からこの恋が消えてものShinMakitaのレビュー・感想・評価

1.4
三年前の事故をきっかけに前向性健忘を患ってしまった真織。…彼女は眠ってしまうと、事故以降から昨日までの記憶を全て失った状態で目覚めてしまうことになる。だから朝、昨夜PCで書いた日記に目を通して状況を把握するように努めていた。ある朝ベッドから起き上がった彼女は、昨日の記憶が鮮明に残っていることに気づく。健忘が治りかけているのだ。喜んだ彼女は部屋の整理に取り掛かるが、その時、自分が書いたらしい若い男性のデッサンを発見する。このモデルが誰なのか気になった真織は、中高時代の親友だった泉に連絡を取る。

高校時代、真織は健忘に苦しみながらも必死に学業に打ち込んでいた。病気のことを知っているのは泉と両親だけだ。そんな彼女に、突然別クラスの男子・透が付き合ってくれと告白してきた。健忘のせいで自信を無くしていた真織は、この告白に乗って〈恋愛〉をやってみようと思いたち、OKと答えてしまうのだが…



「今夜、世界からこの恋が消えても」

以下、手続きネタバレ。


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翌朝記憶を無くしてしまう女性のラブストーリーというと、リメイクもされた「50回目のファーストキス」が思い出されます。1日ではなく1週間だけ記憶を保持できるという設定だと「一週間フレンズ」てのもありました。この少女マンガ的要素に「病気で死に別れ」というお涙頂戴要素を合体させたのが本作。普通の大人な映画マニアならまず手を出さない案件だが、あえて手を出すのが俺流。実はこの手のキラキラしたアオハル系ファンタジー映画には掘り出しモノがちょいちょいあって侮れないのであーる。たとえばキミスイは、脚本的にはともかく浜辺美波という驚異的新人女優と出会えたことが収穫だったし、「未成年だけどコドモさじゃない」は前半のくだらなさから予想外の名着地を見せてくれて唸ったし、意外と忘れ難いのだ。橋本環奈が出てる系は大概レビュー後に忘れてしまうけど、まぁだいたいは損した気分にはならないのであーる。


さて本作。前半に紙媒体とデジタルと両方の日記が出てきたり、泉が日記を熟読するカットが挿入されたりと謎を孕んで進行。透の告白の動機や擬似恋愛の意味など理解が追いつかない部分はあるものの、まぁ何とか己を奮い立たせてついていきました。んで、透の家庭事情などであっためられた涙腺が、花火大会でさらに負荷をかけられ、葬式で大決壊…となるのが理想でしたが、そうはならず。でも日記を改竄する泉ちゃんの涙にはちょっともらい泣きしてしまった。古川琴音の力に因るところが大きいね。いい女優だわ。そして現在パートのエピローグもしっかりできていて、まあまあ満足して終了。

ということで、ハラも立たず損した気分にもならないのだが、何かもの足りない。そもそも青春・恋愛ものばかり撮ってる三木監督の手慣れた感じが気にくわない。福本さんの「アイドルが演技頑張ってる感」にさほど魅力を感じない。真織と透のあまりに純なキャラクター(極めてアニメ的)にも鼻白む。そして学校描写の薄さも気になったりする。Vシネなんかのヤクザの抗争シーンに警察が出てこない不自然さ同様、教師の存在が皆無ってのはどうなんだ。あんな真織が通学するのに、教師が病気のこと知らないってのはおかしくないか? 葬式にクラスメートがいないってのは変じゃねーか? あのデブの不完全燃焼は何とかならなかったのか?……うーむ、見終わってみると、アラばかりが気になるな。残念ながら今回は掘り出しものを当てたという印象はなかったが、古川琴音の力量を再確認できただけでも良しとするか。あ、あと一晩で日記をPCに落とした松本穂香の頑張りにも拍手。そして萩原聖人は現代版・麻雀放浪記を書いたら直木賞を獲れるのではと思ったことも付記。
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