甘酒

今夜、世界からこの恋が消えてもの甘酒のレビュー・感想・評価

4.4
真織はとても幸せ者だ。
人は生きていく分、記憶が蓄積されるが、同じように少しずつ忘れていく。
それは決して寂しいことでも悲しいことでもないようにさえ思う。

眠る度に記憶がリセットされる真織は、
毎日の自分に起きた日常を日記に書き記すことで、
記憶という思い出を蓄積していくが、それは記憶ではなく思い出となってしまう。
楽しい日々を決して色褪せないように、文字に起こし毎朝それを読み返す。
『彼女の朝は絶望で始まる』というような台詞があったが、
外に出れば、その日の新しい真織の1日が始まることに、なんら変わりはない。と思う。

ただ、そのリセットされた思い出を毎日紡いでくれる友人や家族、
そして愛してくれる人。
その愛情の深さに心震えた。

きっと、思い出を置き忘れてしまう本人より、
消えない思い出を抱えたままで、透を忘れてしまった真織に寄り添い受け止め、一緒に進んでいくことはどんなに苦しいだろう。

真織の親友の 泉 役の古川琴音さんの演技が本当に素晴らしく、
複雑な感情が入り組んだ、悲しく苦しく悔しい、、
そんな言葉にならない心の叫びが涙となって溢れ出るシーンは
本当に心揺さぶられました。

三木監督らしい、透明感があり、風の動きを感じるような美しさ。
それは儚さにも通じるのかな。

たとえ忘れてしまう思い出でも
その一瞬が最高に幸せだったら、
やっぱりそれは人生の変わらない幸せな一部。なんだと思った。

劇場でも至る所で鼻をすする音が聞こえるほど
とても切なく悲しくも愛おしい。美しい作品でした。
甘酒

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