ナミモト

NOPE/ノープのナミモトのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.6
“動物”の習性、制御できないもの、「まさか」は現実に起こりうること。

馬、チンパンジー、そしてアレは、人間以外の生命体という点では共通していて、人間以外の生物界のルールに、人間だけが無自覚でどこか愚かしい…と感じました。
お兄ちゃんは、馬の調教を通して動物の習性に通じているからこそ、目を合わすな、アイツはテリトリーに敏感だから、と早くにその習性に気がついてましたね。
チンパンジーは、風船の破裂音が何かしらのトラウマを引き起こすトリガーになったとも捉えられます。もしかしたら、それは銃声を思い出させたのかもしれない。チンパンジーをコメディ番組に出演させること自体が、チンパンジーを服従させようとしている無謀なこととも捉えられます。
馬は臆病だから背後に立たれたり、目を合わすことがトリガーとなって攻撃的になることがある。
人間が飼い慣らせると見做しても、動物には絶対に飼い慣らすことのできない不可侵の部分がある。その不可侵な部分に踏み込みすぎれば、それはすなわち攻撃を受けるということなのではないでしょうか?
それは、制御できない自然と人間との関わりにおいてもそうではないでしょうか?
アレがどこかハリケーンっぽかったのは、アメリカらしさも感じます。空から飛来してくる禍(シン・ウルトラマンっぽく言うならば、禍威獣)ですね。日本だったら、地震、地面と関わりのある禍や、津波のように海と関わる禍が、リアリティを帯びた怖さがあるでしょうか。地面掘って来る怪獣がいたり、ゴジラが海から来るのは、身近に起こりうる天災のメタファーであるため。(ゴジラは原子力のメタファーでもありますね)。制御できないものを制御できると過信することの愚かしさ、ですね。

あとは、映画についての映画、見ることの暴力性、でしょうか。
見るとは、相手を威嚇する、相手より優位に立つための動作となり得る危険性がある。動物には目が合った時に先に逸らした方が上位関係の下になる等のルールがありますよね。動物によってそのルールはまちまちでしょうけど。人間だけが、ホイホイと気軽に動物園とかで動物を見る経験に慣れ過ぎて、そうした視覚の自然界でのルールに鈍感な生き物。動物園もそもそも見ることの優位性に立つための施設で、うそっぱちの自然。万国博覧会のような大掛かりな見せ物です。(ちなみに鷹は、目を合わすと敵とみなして攻撃してくるそうです。)本作には、スペクタクルな余興性に対する批判的態度があります。
お兄ちゃんと妹の目配せは、ラストに効果的に伏線回収されていて、よかったです。
人間にとって、視線のやりとり、目配せとは、コミュニケーション手段でもあるということですね。

おそらく、本作は、未確認飛行物体、未知の生物との遭遇もの要素はあるにはあると感じましたが、それよりも、動物の本性、自然の本性を見くびんなよ、ということかなぁと感じました。
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