KnightsofOdessa

NOPE/ノープのKnightsofOdessaのネタバレレビュー・内容・結末

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.0

このレビューはネタバレを含みます

[最悪の奇跡は悲劇と喜劇の境目に"立つ"] 60点

私は単にマイブリッジの騎手に名前を与えたかっただけなんだと思うが、それこそが"映画の王族"とまで語られている通り最強のエンパワーメントなんだろうと勝手に想像する。観る者=全てを食らい尽くす捕食者=我々観客に立ち向かい、再び王族が王座を取り戻したぞと言わんばかりのラストへと繋がるわけだ。馬を介してグリーンバック→監視カメラ→フィルムカメラ(ガトリングガン!ズープラクシスコープ!)→巨大チェキ(湿板写真?)と映画史を逆順に辿り直し、マイブリッジからマイブリッジへと戻る。その途中で映画は覗き穴から覗く時代もあったわけだが、本作品も正しく覗き穴映画だ。覗き穴はコチラが覗くものであり、向こうから覗かれるものだ。POVにして視線をカメラに合わせるなんてシーンもあったが、本作品では覗き穴としての映画を乗り越えて客席に干渉まで始める。無論我々に干渉することは出来ないのだが、終盤で起き上がったエムが"しゃ始めるぜ!"とレコードを掛け、フレーム基スクリーンとしての窓を通って意志なくコチラを見る"観客"のような人形たちを映し出すシーンで、映画はスクリーンを乗り越えたんだと思った。覗き穴を乗り越えてコチラまでやって来たのだ。"客席"を馬で走り回るOJの背中には"クルー"って書いてあるし…となると、映画黎明期やマイブリッジを貫通して"ワイルド・ウェスト・ショー"までいっちゃうのか。

とは云え、残念ながら前半の90分くらいは勿体ぶった語り口で、どうでもいいジャンプスケア(ジュープの子供たちがチンパンジーの格好をしているのは、ジュープのトラウマをOJに継承するためか?)とか雑に核心に触れるなど(木馬とか"目が合わなければOK"とか段取り感半端ない)残念な点が多い。消化管のシーンとか絶対にいらないでしょ。全体的な火力不足は、見る/見られるという関係性の中に"円盤に見られる"というのが可視化されていないのが原因か?そのまま"円盤に目があってほしい"というわけではないんだが、どうにも"目が合わないとOK"理論が受け入れがたく。

あと、めっちゃバカっぽいけど、自信なさげにずっと下向いて人を目を合わせないようにしていた主人公が、敵を見上げて目を合わせて立ち向かうというのは良い。最終形態が天使っぽいので"エヴァンゲリオンだ!"と言っている人がいた。ちょっと落ち着けと言いつつ、あり得ない話でもなさそうだなあ。生き残ったもう一人の女優が『サイコ』の母ベイツのミイラに似ているという指摘はごもっとも。
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