なべ

NOPE/ノープのなべのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
3.9
 裕福なインテリ黒人ニューヨーカーのひねくれたストーリーテリングがおもしろくて、今回はどこに連れて行ってくれるのだろうと楽しみにしてたジョーダン・ピールの新作。
 ははーん、仰ぎ見る恐怖か、なるほど、彼がモンスターパニック映画を撮るとこうなるのか。スピルバーグな映画くらい俺だって撮れらあってことなのか、やたら御大の過去作を意識してたよな。ことごとく負けてたけど。
 語り口も独特なケレンも大いに楽しめたのだが、見終わってからどうにもモヤモヤが止まらない。というのもジュープの過去のエピソードが本編とどう繋がっているのか、いまひとつしっくりこなかったから。
 調教つながり? まあそうだろう。チンパンジーの凶暴化も、馬の後脚蹴りも、UFOの攻撃も、調教には不如意なアクシデントがつきものってことだろう。でもそれだけじゃないよなあ。
 だいたいこういう場合、本編よりサブストーリーの方に作者の言いたいことが込められてたりするから、なおのこと気になってた。OJとエムの大活躍より、ジュープとゴーディの話の方がエグ味が強かったせいもある。
 架空の番組「Gordy's Home」で起こった凄惨な事件。昔あったよね、「チンパン探偵ムッシュバラバラ」とか「ゆかいなチンパン」って、チンパンジーが主人公のドラマが。特にゆかいなチンパンとはテイストが似てるもんだから、本当にそんな事件があったのかとググってしまったわ。そんな事件はなかったが、代わりにトラビス事件に行き着いた。あー、なるほど、妙にゾワゾワしたのはトラビスの記憶がうっすらあったからか(興味のある人はググってね)。
 何度か挿入されるGordy's Homeのシークエンスで、とりわけ印象に残ったのが、グータッチのシーン。一瞬ゴーディとジュープの心が通い合ったような、そんな雰囲気さえあったよね。おそらくジュープはここから誤ったメッセージを受けとったのだろう。自分はどんな危険に遭遇しても死なないって。
 彼が襲われなかったのはたまたまテーブルクロスで目線が遮られてて、垂直に立った靴を見つめていたからなのに。
 凄惨な過去を話すときのあのニヤけた表情からも、忌まわしい事件が「奇跡」に誤変換されているのがわかる。
 恐ろしいことに、大人になった今もあの奇妙な時間の共有が忘れられず、「恐怖とのつながり」を追体験しようとしてる。それを商売に展開してるところなんてもう!ほんと勘違いって怖いわ。
 秘密の殿堂部屋の飾られた「垂直の靴」は彼にとってまさに奇跡の象徴。もしかしたら次のXデーは空からもたらされる、なんて啓示を読み取ったのかもしれない。いずれにせよ、これもOJのいうところの「最悪の奇跡」に過ぎないんだけど。
 話の構成上、OJとエムが主人公になってるけど、彼らはジュープの犯した失敗に巻き込まれたようなもんで、起源といい、動機といい、誤解といい、みくびりといい、ジュープの方が明らかに本質に踏み込んでて、かつ罪深い。
 てか、脇役なのに壮絶な過去まで与えられて、うんと深掘りされてるじゃんね。OJなんて「父親のようにはいかない息子」程度のキャラしか与えられてないのに。エムに至っては、バズりたいチャラいユーチューバーよw
 思うに、ジョーズやトレマーズがそうだったように、ノープでも主人公の深掘りは不要と判断したのかも。代わりにその背景やディテールを引き受けたのがジュープだったのではないか。
 そもそもGordy's Homeファミリーで1人だけ人種が異なるのも妙に気になったし(養子なのかな?)、黄色人種がカウボーイの衣装を纏うチグハグさも絶妙に滑稽だった。もしかしたらコンプラ対策で東洋人を出さないといけないが、一番違和感のある役どころをユアンに演らせたのかもしれない。あるいはイエローモンキーと猿を同列に見立てた差別意識の表れなのかも。黒人差別には声高らかに不満を表明するが、他の人種差別には無関心って黒人、案外多いから。

 オープニングで提示される旧約聖書の一節。「私(神)はあなたに汚物をかけ、あなた(残虐な支配者)を辱め、あなたを見せものとする」(ナムホ書3章6節)
 わかったようなわからないようなエピグラフだが、“支配する者は罰を受ける”っていうためのものならちょっと頭悪そう。昨今のSNSでバズりたいが故に自ら見せ物になる承認欲求モンスターなんかを揶揄してるのだとしたら、ジョーダン・ピールらしいひねくれ加減だと思えるが。家全体に排泄物をぶっかけてたしねw
 目を合わせるな!にはじまり、見ることの恐怖、バズる動画を見せたい欲求など、“見る”ことへの意識的なアプローチによって、見られる者(猿やUFO)の嫌悪と逆襲が引き出されるのだとしたら、ちょっとバカっぽい。転じて、監視される黒人の嫌悪と逆襲の正当性を仄めかしたいのだとしたら…うーん、やっぱりバカっぽい。
 もしかしたらこじつけ厨に仕掛けられた巧妙な罠なのかも。本当はどれも大した意味はなく、ただの記号なのに、考察するのが三度の飯より好きって輩があーでもないこーでもないと意図せぬところで楽しむのを見てほくそ笑んでるのかもしれない。ジョーダン・ピールならあり得る。やりかねない。

 うーん、結局ジュープの話が本編とどう繋がってるのか言えてないな。かすってる気はするんだが。そのうち思いついたらまた更新します。
なべ

なべ