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NOPE/ノープのumisodachiのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
4.5







ジョーダン・ピール監督最新作。前作『USアス』はかなり好きだったから期待して臨んだ。

映画撮影用の馬を飼育する農場を経営している黒人一家。上手くいっていたが、空からの落下物のせいで父親が死亡してからは経営に苦しんでいた。実直な性格のOJと奔放で野心家の妹エメラルドでは意見も合わない。近くの遊園地に馬を一頭ずつ売ることでなんとか生き延びている状態だった。しかし、「父親が死んだとき、空に【何か】を見た」とOJが口走ったことで事態は急展開。エメラルドはその【何か】を映像に収めて一攫千金を狙おうと提案し、ふたりは高機能カメラを屋根に取り付けることにするが……。

これは!面白かった!ジョーダン・ピールの過去作は社会風刺に満ちていて大変に良いのだが、欠点は技巧に寄りすぎていることだと思っていた。メタファーをメタファーとしてわかりやすく描きすぎなど、【頭で考えて観る】要素が強すぎてやや広がりに欠けるなあと感じていた。

しかし!本作は違う。分かりやすいテーマの提示はそのままに、『ジョーズ』や『AKIRA』など過去の有名作品を思い切って引用しつつ、IMAXカメラによるダイナミズムを実現して没入感を増量。単にワクワクする部分と、頭で考えて観る部分とが上手くブレンドされた極上の現代エンタメに仕上がっていた。とにかくめちゃくちゃ面白かった。

人間が動物や自然を【見る】視線と、カメラを通じて被写体を【観る】ことを際立たせ、人間の傲慢さと映画に魅せられた人間たちの業を自嘲的に愛を持って描く。さらに、映画の歴史上でなかったことにされてきた黒人たちの活躍や、男子に比べて家庭内で優先されてこなかった女性の活躍に焦点を当てて盛り上げる。

『ゲット・アウト』では黒人差別を、『USアス』では差別に加えてアメリカという国の矛盾を、そして『NOPE』では差別やSNSに支配された現代社会というテーマに加えて人類そのものへの批判を。作品を生み出すたびにテーマの規模が広がっているのが素晴らしい。何層にも分かれたテーマ性は複数回の鑑賞を促すし、名作映画のオマージュによる映像的な気持ち良さはピュアな快感を与えてくれる。これは絶対に映画館で観るべき!映画を観たー!!って満足感があるよ!

細かく分析したいものの、この作品は前知識なしで観た方が面白いので今回は割愛。しばらくして時間ができたら書くかも。

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