ゆうた

NOPE/ノープのゆうたのレビュー・感想・評価

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
2.0
世の中には期待した通り話が進んでおもしろいものもあれば、期待とは違った方向に話が進むけどおもしろいものもある。
しかし現実には、期待とは違った方向に進んだがゆえにつまらなくなるものが大半である。
本作はそのパターン。
冒頭の不穏さは良かった。
シットコムの撮影現場に似つかわしくない静けさ。applauseと指示するライトが点滅している荒れたセット。一目で予想外の出来事が起こったと予感させる手際はさすがだった。
でもそのあとがなぁ…。

なんとなくやろうとしてることはわかる。
主人公は黒人のスタントの子孫で云々、西部劇を模したテーマパーク、この辺の素材を使って、映画史とアメリカ史と黒人差別の歴史的なのを繋げようとしてるんだろう。
アメリカ近代史、映画史に詳しくないおれでもなんとなく察する。
ラストショットもたぶん西部劇に元ネタがあるんだろうね。タランティーノなら、あれね!って膝を叩くんじゃないかな。
バイクのシーンは『AKIRA』ぽかったしね。
制御していたと思っていたはずが、ある日突然しっぺ返しをくらうとか。自分は見る側だと思っていたのが、実は見られる側だったとわかる瞬間の主従関係、主客関係の逆転のスリリングさとかさ。
そういうのを盛り込もうとしてるのはわかる。

でもさ、やっぱりチンパンジーが暴走した過去エピソードと、現在の肉食UFOの話がそんなに上手く繋がってないよね。
つーか普通に肉食UFOの話だけの方がすっきりしておもしろいじゃん。
なんなら兄妹がUFOの撮影するとかいう話もいらなくて、ひたすらUFOに怯えて、上を見ないで逃げまどう話の方がおもしろくないか?
『ドントブリーズ』や『クワイエットプレイス』みたいな感じでさ。
この映画の中で一番ハラハラドキドキするのって、アジア人の子どもが机の下に隠れてチンパンジーに見つからないようにしてるところだった。
なぜかといえば、このシーンがもっとも、見る/見られるの関係を表現してるから。
今までモノだと思ってたチンパンジーには意思があったのか!
チンパンジーに見られている!
今度はおれがあいつにモノとして扱われるんだ!
って思うから。
つまり映画のテーマというか、「視線の暴力性」、「見ることによる対象のモノ化」というような問題意識と一番シンクロしてるんですよ。
もちろんその後のUFOの話も、 UFOに見られていたのか!ってことでもあるんだけど、でも『インディペンデンスデイ』の方がおもしろいよ。
『インディペンデンスデイ』の方は、曲がりなりにも最後にUFO倒したロジックがあるけど、こっちはよくわかんねーもん。
なんで人型風船食ったら爆発したの?
あれで死ぬならそれまでにもっと危険そうなもの食ってないか?
そもそもあいつはなんで風船食ったのよ?
無機物でも目が合ったら食うのか?
ライダーと一緒にバイク食って爆発してんじゃないか?
てっきり、あの目と口が一体になった部分に井戸型カメラのフラッシュを浴びせて倒すとか、そういうオチだと思ったよ。
そっちのがテーマとも合ってるし、前半でエメラルドがうっかり井戸を覗きこんで写真に写っちゃうシーンとも呼応するし。

ひょっとしたらこれ劇場の大スクリーンで見てたら迫力あったかもね…って思ったけど
それならやっぱり『インディベンデンスデイ』でいいじゃん。
あっちのが大統領の演説とかあって感動するから。続編の方はもっとUFOデカイしさ。

ジョーダンピールさんが自分ではどう思ってるのかわからないけど、あんたは雰囲気怖い系、人間って不気味!系映画が得意な作家なんだから、今回みたいに、バカみたいな肉食UFO出したらダメだろ。
あれじゃあスリラーやホラーじゃなくてモンスターパニックもの、つーか『アタックオブザキラートマト』みたいなネタ映画じゃねーか。
そっちじゃなくて、チンパンジーがめちゃめちゃぶん殴ってる、やべえ、目があった!気づかれた!あれ、グータッチして意思疎通できる…のか?
みたいな感じが得意なんだから、そういうの撮ってよ。

結論としては、チンパンジー部分は『猿の惑星 創世記』、UFO部分は『インディベンデンスデイ』、黒人西部劇なら『ジャンゴ 繋がれるざる者』、西部劇とUFOなら『カウボーイ&エイリアン』を個別に見た方がおもしろいです。
ゆうた

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