春とヒコーキ土岡哲朗

NOPE/ノープの春とヒコーキ土岡哲朗のネタバレレビュー・内容・結末

NOPE/ノープ(2022年製作の映画)
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このレビューはネタバレを含みます

すごいことを成し遂げるには、命を取られるリスクが必要。

すごいものを撮ってやる、がモチベ。UFOの攻撃に晒される兄妹の話だが、メインのモチベーションが「生き延びる」とか「倒す」ではなく、「UFOを撮影して証拠を収める」。命の危険に対して、動物的防衛本能じゃなく、人間は何かを成し遂げることを求める生き物だ、という尊厳を見せつけられてるようで熱い。それも、最初は牧場経営のために衝撃映像を撮って儲けよう、だったのが、だんだんと「とにかく撮ってやるんだ」という根性になっていく。途中でホームセンターの店員エンジェルが「これって、誰かの役に立つんだよな?金や有名になるためだけじゃなく、UFOの弱点を突き止めるヒントになって、ひとのためになるんだよな?」と尋ねるが、これに対して誰も否定も肯定もしない。これはひとのためではない、自分のためだけの衝動である。

主人公OJの父は、馬の調教師として立派だったが、その仕事が斜陽産業になっていく中で死んでいった。OJは、父の人生に対して二つの矛盾した評価をしているのだと思う。父のように仕事を胸を張れていない劣等感と、父のような達成感のない人生は嫌だという焦り。父のようにやり遂げる。父とは違ってやり遂げる。
その思いに背中を押され、OJはUFOを撮ることに執念深かった。兄と妹が、協力しつつも互いに「そんな頭硬くちゃ兄さんは牧場をつぶす」と思っている妹と、「お前は牧場をほったらかし」と思っている兄。それが、UFO撮影のクライマックスに入ったとき、7回連続のハイタッチをする。勢いがすごすぎてビックリしたが、コンビネーションのある兄妹であり同士であることが炸裂していて最高。

すごいもんには、命を取られるリスクがある。
この映画で一番焼き付いた映像は、チンパンジーのゴーディによる人間惨殺。コメディドラマにチンパンジーを出演させるのは、大胆で目を引く面白い企画。しかし、動物なのだから人間にはコントロールできない暴走の可能性もある。明るいスタジオで、スタッフ、キャスト、観客が襲われた状態で血まみれのチンパンジーがたたずむ姿は、怖すぎる。このゴーディのエピソードは、すごいことをやろうとするのは、命を取られる可能性がある、ということを示しているように思う。
OJたちがUFOを撮るという偉業に挑戦するのも、UFOに食べられて殺されるリスクがある。実際、カメラマンのホルストは吸い込まれるまでUFOの撮影をし続けて、食べられてしまう。すごいもんを安全に実現することなんてできない。しかし、命を取られる危険性があるものこそ、すごいものなんだ、という肯定にも見える。
しかし、元子役のジューブは、当時チンパンジー・ゴーディの事件現場に居合わせたショックから、「命の危険があるもの=すごいもの」を歪んで解釈してしまっている。

ホラーとしては、監督の過去作『ゲット・アウト』と『アス』の方が好き。ホラーであることが一貫していて、楽しませ方がストレートだった。今回は、何が起きるんだろうと思っていたら、ホラーとSFが入り混じっていて、ホラーを期待したらジャンルごと違ったような感覚。また、過去2作は相手の悪意があったが、今回は相手が人間の物差しで測れない人食いUFOで、悪意にぞっとすることがない。それと、「撮る」というOJたちのモチベーションが、映画を作っているスタッフたちの特別な感情すぎる気もした。なので、人にオススメするならまずは過去2作。