幽斎

炎の少女チャーリーの幽斎のレビュー・感想・評価

炎の少女チャーリー(2022年製作の映画)
3.6
恒例のシリーズ時系列
1984年 3.6 Firestarter 「炎の少女チャーリー」オリジナル
2022年 3.6 Firestarter 「炎の少女チャーリー」リブート、本作

世の中にはリメイクして良い作品とソウで無い作品が存在する。Drew Barrymore主演で映画化。Stephen Kingの傑作スリラー「Firestarter」を皆大好き(笑)Blumhouse Productionsがリブート、MOVIX京都で鑑賞。

オリジナルはJohn Carpenterが監督する筈。しかし「遊星からの物体 X」今ではカルト的人気を誇る傑作だが、劇場成績が惨敗で激昂したメジャー、ユニバーサルは予定を覆してMark L. Lester監督で製作。傷心の Carpenter監督を救ったのがコロンビア・ピクチャーズ(現ソニー)。同じKing原作「クリスティーン」見事に汚名挽回を果たす。

日本も「ファイアスターター」で公開される筈。しかし、同じ年に公開される「ストリート・オブ・ファイヤー」混同を避ける為。当時の配給会社「CIC」がストリート推しで「炎の少女チャーリー」何ともダサいタイトル。映画会社も初めから売る気無かった可能性も。だからこそ本作は「ファイアスターター」で良かったのに。

時は流れてユニバーサルは懇意にしてるJason Blumと、真夏のホラー3部作を構想。第1弾がレビュー済「フォーエバー・パージ」。第3弾がレビュー済「ブラック・フォン」。本作は第2弾。Blumは当たるとトコトン続編を作るタイプ(笑)「パラノーマル・アクティビティ」「インシディアス」「ハロウィン」等々。多くの候補の中でタイトルが知られてる割にリメイクしてない本作は「デューン/砂の惑星」「ハンニバル」生きる神話Dino De Laurentiisの死去に伴い、オリジナルの版権をBlumが買う事で成立。

「ビューティフル・マインド」アカデミー脚色賞Akiva Goldsman。脚本と制作ではトップクラスだが、レビュー済「ハロウィン KILLS」Scott Teemsの脚本に興味を示さず降板。次にレビュー済「屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ」Fatih Akın監督を指名。しかし、主演の人選で意見が対立して降板。他のフォーエバー・パージとブラック・フォンは撮影快調!。ユニバーサルは「どう為ってるんだ!」。困ったBlumは手当たり次第に声を掛け、Keith Thomas監督に決まる。でも「ザ・ヴィジル~夜伽」微妙なホラーだよな(笑)。

此処まで揉めるならCarpenter監督のリベンジ一択と思うが、御大も74歳。COVIDコンサルティングを受ける撮影は酷と判断。ユニバーサルは敬意を表して音楽だけでも携わるプランを提案。息子でレビュー済「ハロウィン KILLS」担当したCody Carpenterをセットで起用。最初からネタバレするが本作で一番良かったのは音楽。コレは劇場案件でCodyは音楽監督として一流に成れそう。名前だけでも憶えて帰って下さい(笑)。

Stephen Kingの原作は随分前に読了済ですが、新潮の文庫本は上下巻700ページの大作で長編6作目。先輩に依れば当時はユリゲラーのスプーン曲げ、矢追純一のUFO番組が人気。関係ないけどスプーン曲げは私でも出来ます(笑)。Pyrokinesisは医学例の有る超心理学の超能力。「Spontaneous Combustion」原因不明の焼死を遂げる人体自然発火現象もパイロキネシスと言う解釈も在る。私の好きなTobe Hooper監督が映画化してたな。

私はマンガは子供の頃を含めて一切読まないが「イヤボーンの法則」知ってますよ(笑)。主人公がピンチに陥った時「イヤーッ!」叫ぶと超能力が目覚め、パワーに敵が「ボーン」吹き飛ばされるパターン。コレを映画化すると政府の秘密実験で超能力を持ってしまった主人公が、組織に追われ逃避行を繰り広げる。代表的なのは「スキャナーズ」。読んだ事無いけど「仮面ライダー」改めて凄い作品だと思う、シンも面白いのかな?(笑)。

9歳だったチャーリーが、本作ではコンプライアンスに配慮して10代前半の設定。自我が目覚め、家族と社会との狭間で苦悩する時期。好意的に考えれば悩みを1人で抱え込む思春期の不安定さを強調したかった。Goldsmanが鼻で笑った脚本は言う程マズいとは思わないが、本作が面白くない理由はThomas監督の演出力の脆弱性。

原作はトコトン逆境に置かれ追い詰められ、ストレスに耐えるシンドイ展開が続いた挙句ラストでプッツン切れて、炎の大暴走で逆襲!カタルシスを読者も味わう。国家を抑圧者として描くのも、70'sを強く感じる。最後に駆け込むのは警察ではなくメディア。反権力を売りにした雑誌「Rolling Stone」。Kingの小説はリベラルが色濃く反映されるカウンターカルチャー。アメリカン・ニューシネマKing版と言える世界観が魅力。

オリジナルのLester監督は「コマンドー」の様に演出が一直線で起伏に欠け、凡庸なパッとしない作品しか残してないが、クライマックスのショボさはCGが無い時代とは言え別な意味で特筆モノ。原作がラストのカタルシス命だけに弁解の余地は無い。時の政権に日和る事で有名なニューヨーク・タイムズに駈け込む時点で権力への反骨心も感じない、だからリメイクも敬遠された。

リベンジと成る筈の本作もラストは存外にショボい。フォーエバー・パージのロケ代とかブラック・フォンのEthan Hawkeのギャラで、予算不足なのかと調べたら$12,000,000なので、一体何処に消えたのか?。敵が防火服を着たら勝てないとか、ナニソレ?。本気を出したら核爆発レベル、って言ってたんじゃん。アメリカではズタボロに酷評されてるが、看板倒れにも程が有る。原作ともオリジナルとも違うラストも意味不明。配給した東宝東和が本作を観て「ダメだこりゃ」敢えて悪評の邦題を使った、ソレも一つの良心だと思いたい(笑)。

レンタルビデオ全盛期を彷彿とさせる作風だが、正に此れがホントの「不完全燃焼」。
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