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破戒のnanaのレビュー・感想・評価

破戒(2022年製作の映画)
4.5

島崎藤村原作の破戒を60年ぶりに映画化

過去にも木下惠介と市川崑が監督制作。
市川雷蔵、池部良が演じた主人公・瀬川丑松を本作では間宮祥太朗が演じている。


自らの被差別部落出身を隠して故郷を離れ小学校の教員となり、何の不自由もなく暮らす主人公の瀬川丑松(せがわうしみつ)。
父親から「決して人を信用しては行けない、自分の身分は明かすな」と強く言われ親元を離れている。

強い感受性と正義感を持つ丑松は同じく被差別部落出身の作家、猪子蓮太郎に傾倒していくが·····

冒頭から目を覆いたくなるような酷い迫害シーン。
理不尽極まりない成功したエタと呼ばれる紳士への仕打ち。
人間の醜さをまざまざと見せつけられる。

かなり重く苦しい気持ちになるのでは···と、この先の鑑賞を危惧したが、キャストの美しい演技と完璧なカメラワークで清涼感に溢れる作品に仕上がっている。

身分の違いがある恋愛。
お寺で間宮祥太朗と石井杏奈が見つめ合うシーンは息を呑むよう。
…時が止まる。

制度が変わり「人は皆平等に天皇陛下の民である」と言っても人々には根強く差別と偏見があり、職業や結婚にも規制があった時代。

「エタは人の家の敷居をまたいでは行けない」

それでいて戦争には徴兵している勝手さ。

劇中のセリフ
“住んでいる場所で最下層の生活を強いられる”
これを法が変わっても町に暮らす人々が受け入れ無い現実。
誇りとプライドをかけ強い力で時代を切り開こうとした猪子の凛々しさ。

人間の尊厳に対する強い憤りと出目を知られる恐怖。
揺れ動く丑松の危うさを間宮祥太朗が熱演している。
物憂げな表情と繊細な仕草に惹き込まれる。

重いテーマだが感動と希望が溢れる素晴らしい作品でした。


間宮祥太朗は凄い俳優だと思った。
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