シズヲ

燃えよドラゴンのシズヲのレビュー・感想・評価

燃えよドラゴン(1973年製作の映画)
3.7
※再レビュー

『Don't think! Feeeel!(考えるな、感じろ)』

ディレクターズ・カット版で久々に視聴。死後のブルース・リーを世界的なアイコンに押し上げた代表作。多くのフォロワーやパロディを生むことになるだけあって、リー師父のインパクトはやはり凄まじい。鍛え上げられた肉体、作中冒頭の師父や弟弟子との掛け合いで示される哲学、怪鳥じみたシャウトから繰り出されるカンフー。その存在感は無二のカリスマ的領域に突入している。“黒幕が主催する格闘大会”という物語の土台、後年で『ストリートファイター』など数多の格ゲーで模倣されてたことがわかる。

改めて振り返ると“悪人が根城とする絶海の孤島に潜入してその陰謀を暴く”という筋書きは、香港系のカンフー映画というよりかは寧ろスパイ映画めいている。リー師父による潜入アクションも作中で度々描かれ(監視部屋に毒蛇放り込んでリーが悠々と隠れる下りがなんか好き)、ハリウッド資本が関わっているだけあって当時すでにシリーズ化していた『007』のような趣がある。というか悪役の造形も含めて『ドクター・ノオ』のフォーマットである。女スパイのメイ・リンも何処となくボンドガール感があるけど、あくまで脇役に徹している。

そういう訳で“格闘大会”という土台は終始曖昧に扱われ、半端なテンポ感も相俟って折角のカンフー要素が中々活かされない。明らかに達人との殴り合いの方が楽しそうなのにスパイ要素に比重が置かれ、結果としてリー師父が強敵と戦う展開に乏しくなっている。軽口を叩きながらも抜け目のないローパー、70年代らしいファンキーな風貌のウィリアムズなど、脇役はいずれも濃さがあるだけに非常に惜しい。やたら回想に尺を割いたわりに殆どあっさり消化される“妹の仇討ち”要素など、展開のグルーヴ感も終始に渡って今ひとつ物足りない。

B級映画的な緩慢さや都合の良さで思うところは大分あるけど、結局ブルース・リー師父が暴れ出すだけで一気に楽しくなるので憎めない。圧倒的な肉体美から繰り出されるキレッキレのカンフー、鮮烈なまでの痛快さに溢れている。徒手による体術もさることながら、長棒→棍棒二刀流→ヌンチャクと次々に武器を切り替えてのアクションも痺れる。ヌンチャク捌きの美しさは最早言うまでもない。リー師父は最高なだけに、やはりウィリアムズなどの活躍ももう少し見たかったのが惜しまれる。

終盤ではエキストラを巻き込んだ大乱戦を披露してくれるのが実に楽しくて、鏡部屋でのラストバトルは視覚的演出も凝っているだけにとても良い。エキゾチックな宴会シーンや道着の明確な色分けなど、本作は美術面でも要所要所で印象に残る。そしてこの映画が持つ骨格に確固たる“肉体”を付与しているラロ・シフリンの音楽も秀逸。ストイックなイメージを想起させる有名なテーマ曲の完成度に加え、スリリングかつオリエンタルなスコアの数々が本作の世界観を構築してくれる。

ディレクターズ・カット版で追加されたリー師父の哲学、尺的には2、3分程度の変化でしかない上にラストバトルの伏線にもなっているので劇場公開版で削られたのが何だか不思議だ。そして何度見ても「蹴ってみろ」→「考えるな、感じろ!」のシーンはホント好き。
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