リプリー

MEN 同じ顔の男たちのリプリーのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.9
A24制作のホラーといえば今年は「X」があって、あちらはスラッシャーとして分かりやすく楽しかったが、本作はいかにもA24作品を見ているな、という感じだった。
ある衝撃的な事件を契機に田舎町にやってきた女性。
そこにはなぜか同じ顔を持つ男が何人もいた。

予告篇から分かる通りかなりキャッチーな設定だが、そこから展開されるのは意味深に挿入される断片的な映像だったり、嘘か現実かわからない事件だったりする。
そのくせ伝えたいことは割とシンプルで、メタファとも呼べない直接的な比喩表現(語彙矛盾だが)が出てくる。
意地悪な言い方をすれば、もったいぶっている感じなのだが、まあそれがA24らしさといえる。
つまり、フィクション的な存在や世界観を持ち込まずとも、人間、この世界にある残酷な本質を浮き彫りにした結果、それはホラーになってしまう、というアプローチだ。



※ここからややネタバレ気味※
なぜ同じ顔を持つ男たちが出てくるのか。
彼女にはどう見えているのか。
それともあれはあくまで観客にテーマ性を考えさせるための仕掛けなのか。
観客に委ねているらしいが、僕は後者で解釈した。要は男なんてみんな一緒、ということなのだろう。
主人公の場合、最終的に夫へと帰結していくわけだが、出てくる男たちはいわゆる男性的な(男である限りはほとんど不可分とも言える)嫌な側面を持っている。
さらにこの映画が意地悪なのは、女性もそんな男性の庇護に預からざる得ない場面が描かれてる点だ。もちろん、それは後に恐れるに足りないものとして描きなおされるわけだが。

クライマックス、あるものを吸い込んだ彼女は完全に吹っ切れる。
でも男は、誕生したその瞬間から根本的に変わらない。
変態で、醜悪で、どこまでもいくつになっても無償の愛を求めてるくせに、自分の力を誇示しようとする。
そんな姿に主人公は諦観ともいえる表情を見せる。
決して罵倒したり、ましてや殺したりもしない。
それはアレを吸い込んだから母性的な何かに目覚めたと捉えたがそれはそれで居心地が悪い。
そんなこんなで色々と考えるが、タイトル通りに男を描いているのだと思い納得することにした。

雑記①若いカップルがチラホラといたのが、本作を見て気まずくならないのだろうか。特に終盤のアレを見たら僕はいわゆる性欲的なものがゲンナリしてしまう。
雑記②たまたま、その日の夜向田邦子さんの代表作「阿修羅のごとく」がNHKBSで放送されていた。向田さんの作品にもどうしょうもない男たち(もちろん本作とレベルは全然違うが)が出てくるが、どこか温かな眼差しが感じられる。そう考えると本作はトコトン突き放してるな、なんて考えてしまった。