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MEN 同じ顔の男たちのkuuのレビュー・感想・評価

MEN 同じ顔の男たち(2022年製作の映画)
3.7
『MEN 同じ顔の男たち 』
原題 Men.
映倫区分 R15+
製作年 2022年。上映時間 100分。
『エクス・マキナ』のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手がけ、『ロスト・ドーター』のジェシー・バックリー主演で描くサスペンススリラー。
ダニエル・クレイグ主演の『007』シリーズでビル・タナー役を務めたロリー・キニアが、同じ顔をした不気味な男たちを怪演。

夫の死を目撃してしまったハーパーは、心の傷を癒すためイギリスの田舎町へやって来る。
彼女は豪華なカントリーハウスの管理人ジェフリーと出会うが、街へ出かけると少年や牧師、警官に至るまで出会う男すべてがジェフリーと全く同じ顔だった。
さらに廃トンネルから謎の影がついてきたり、木から大量の林檎が落下したり、夫の死がフラッシュバックするなど不穏な出来事が続発。
ハーパーを襲う得体の知れない恐怖は、徐々にその正体を現し始める。

今作品は、ヒロインの罪悪感と投影の檻を構築する、心霊趣味のフォーク・ホラーかな。
また、オープニングの歌にテーマがあり、ラストで男性シンガーと繰り返されるが、多くの英国ホラーとは異なり、楽観的な気配を残していく。
脇役の演技も巧みで、ほぼ終わりなし。
撮影も美しく、照明に巧みなホラーのダイナミズムがあった。
しばしばピーター・グリーナウェイ監督のようなブーコリック(長閑な)な効果を生み出し、時にはジョーダン・ピール監督のような不気味な威圧感を与えることもあった。
普通なら目を背けてしまうような血みどろのシーンがあるが、レターボックスから腕が引き抜かれるシーンで絶妙に演じられていました。
そして、外陰部や膜が裂けるグロテスクなシークエンスが登場して、画面に内臓が飛び散るような感覚を与えてくれました。
今作品は、米国西部にあるような場所で撮影されてて、カメラに十分な素材を提供してた。
ただ、敷地が広すぎるという若干の非現実性はあったかな。
編集は落ち着いていたし、ペースを乱すことはなかった。
特に不気味な場面やと、奇妙なグレゴリオ聖歌のような音楽が流れるんのは痺れるなぁ。
また、シェイクスピアとマーロウの名前は、ファウスト的な契約を示唆しており、邪悪なデミ・ウルージがヒロインを操るグノーシス的ホラーになってた。
また、『オデュッセイア』や『レダと白鳥』からの引用もあったりと、どこへ向かっているのかわからないとこも感じさせた。
しかし、これをフロイトの不気味さ、つまり抑圧されたものが不穏な形で蘇り、人がそれと折り合いをつけるまで続くと見ている。
スティーヴン・ソダーバーグ監督の『アンセイン 〜狂気の真実〜』(2018年)は、男性の要求の不可解な矛盾に悩まされる女性が決して逃れられないのに対し、この物語は、広い世界を把握できないことよりも、内面の混乱を扱っていると対比できるかもしれへん。
『アンセイン 〜狂気の真実〜』はアンビバレントな結末を迎えるが、こちらは平和が支配しているかな。
面白い作品でした。




是よりネタバレに注意です。


今作品の象徴であるタンポポの綿毛。
タンポポの象徴は重要やと思います。
タンポポは単為生殖というプロセスで無性に繁殖する。
つまり、すべてのタンポポは最初の標本のクローンである。
これは、ローリー・キニアが演じる村の男たちの性格を知る手がかりとなりやす。
また、トンネルと波紋、今作品の舞台である中庭に植えられているリンゴの木、教会に女性の陰部を見せつけている不気味な石像(シーラ・ナ・ギグと呼ばれるイギリスやアイルランドに伝わる魔除けの彫刻)等々、今作品の重要な役割を果してる諸々の事物を紐解けば、今作品の面白味も深まるんじゃないかなぁ。
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