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ファルハのakrutmのレビュー・感想・評価

ファルハ(2021年製作の映画)
4.8
1948年に起きたナクバと呼ばれるイスラエルによるパレスチナ領土の占領を、パレスチナの田舎村に住む少女・ファルハの目を通して描いた、ダリン・J・サラム監督の長編デビューとなるドラマ映画。滞在中の海外の Netflix で鑑賞。ファルハのモデルとなった少女は実在していて、サラム監督の母親がその少女からこの話を聞いたそうである。

村長である父親と暮らしているファルハは、女性に教育は必要ではなく、若くして結婚し、男性を支えることを良しとするイスラム原理主義的な考え方の強い田舎村での暮らしに不満で、都会の学校で勉強することを強く望んでいる。彼女の父親は反対であったが、都会で暮らす弟(ファルハの叔父)の説得で、学校へ行くことを認める。そんなときに、イスラエル軍による爆撃が始まり、ファルハは友人の家族とともに車で避難するように父親に言われるが、父親を一人にするのが心配なので自宅に残ってしまう。ファルハの身を案じた父親は、彼女を倉庫に閉じ込めて、自分が戻ってくるまでそこに隠れているように告げる。これ以降のシーンは、わずかな隙間から外部を見ているファルハの視線から描かれていく。

どんなときでも見るべきであるが、イスラエルとハマスによる戦争が起こっている今だからこそ、特に見るべき映画である。ハマスのような組織がなぜ生まれたのか、最初にハマスが仕掛けた戦争にもかかわらずイスラエルへの国際的な非難が強いのはなぜか、などを考える上で原点となるのが、この映画で描かれているイスラエルによるパレスチナ占領である。第二次世界大戦で迫害されたユダヤ人にとってイスラエル建国は必然であるとは言え、すでにその地に住んでいたパレスチナ人との共存の道を選ばず、パレスチナ人を追い出して建国するという思想は、ずっと昔にユダヤ人がこの地から追い出されたというユダヤ教的な主張はあるにせよ、どうなのだろうか。迫害された経験を持つ民族が別の民族を迫害するというメンタリティがまったく理解できない。ガザ地区へのイスラエルの非人道的な攻撃にしても、人質の奪還を目的ではなく(実際に、停戦合意による解放以外は、人質はほぼ救出されていない)、ガザ地区の占領とパレスチナ人の追放が目的なのは明白である。

とは言っても、この作品は戦争映画ではない。戦闘はまったく描かれていないし、爆撃音くらいしか聞こえない。そんな中で、ファルハが倉庫の中から目撃するショッキングな出来事が、戦争というものの現実を象徴していると言ってもよいだろう。また、イスラエル軍に同行している、頭部を袋を被せられたパレスチナ人協力者が、この映画のキーとなるのである。さらに、ハラハラドキドキのシチュエーションスリラーとしても鑑賞できるという点でも、本映画は非常に高いレベルにある。ファルハをリアリティ豊かに演じたカラム・タヘルとともに、ダリン・J・サラム監督の今後に注目だろう。
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