ハル

世界が引き裂かれる時/クロンダイクのハルのレビュー・感想・評価

3.7
なんと表現したら良いのだろう。
ウクライナの一組の夫婦が生活していくなか、石ころのように無数に転がっている『死』
凄惨で直接的な描写が続くわけではないのに、心がどんどん苦しくなっていく。
過酷な戦争下の国の人々の生活が淡々と映し出される物語。

殺しが日常茶飯事化していくと、人間はヒトではなくなるのかもしれない…
言いようもない恐怖、戦争を経験したことのない自分にはどこかフィクションにすら思えてしまう非現実感が混ざり合い、このままスクリーンを見続けるべきか…
逃げたい思いとの葛藤が生まれた。
夢と現実がフュージョンして、“当たり前”が歪んていく怖さ。

ドキュメンタリータッチ、実話ベースということを意識してしまえばあまりに辛く、悲しくなってしまう為、自己防衛本能が働いたのかもしれないね。
画面の移り変わりをシームレスにしているのは特徴的な映し方に感じられ、いつ、どこから銃撃が飛んでくるかわからない中での生活を生々しく描き出す。
こんな状況で生きていたら、ヒトの精神なんて簡単に壊れてしまう…

リアルだと認識すれば直視できない気持ちに襲われ、どこまでも救いの見えない時間。
戦争というものがどういうものなのかを知るにはうってつけだが、果たして知る必要があるのかどうか…傍観者な立ち位置を望む、卑しい心と向き合わされる容赦ないプロットになっていた。
情報は表層だけに留め、知らないまま過ぎさっていく現実があるとすれば、中身を深く知らない事があってもいいと思う派です。
全てを受け止めきれるほど、ヒトは強くできていないよね。

〜シアター・イメージフォーラム〜
今回は初のシアター・イメージフォーラムでの鑑賞。
実は『モダンかアナーキー』を予約したつもりだったのに、なぜか間違って選択してしまった作品がこれ。
しかも、ファーストデイを予約したつもりが定価+知らない作品を…気づいた時のダメージは深かった。

スケジュール的にも厳しく、行こうか悩んでいたところ、Filmarksで仲良くしているちぃちゃんに話したら、「この作品は知ってるよ!感想聞かせて」と送り出してもらったお陰でなんとかモチベーションが保てた形。
本当に感謝(ポスタービジュアルからしてヘビー過ぎる為、マジで悩んだ一作…)

シアター・イメージフォーラムは趣のある映画通が集まる隠れ家的な劇場でした。
東京で映画を見る機会があればぜひ一度体験してみてくださいね。
シネコンとは一味違うアットホームな映画体験が出来る素敵な場所です(トイレが各階一つしかないので、その点は注意!予め済ませてきたほうがいいかも)
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