木蘭

世界が引き裂かれる時/クロンダイクの木蘭のレビュー・感想・評価

2.1
 高いテーマ性を美しい映像で暗喩を織り交ぜて描いても、人間が描けて無ければ意味が無い。

 2014年のドンバス親露派支配地域を舞台に、マレーシア航空機撃墜事件に遭遇した家族を描くのだが・・・。
 低予算なので直接表現が出来ず、音や散らばった残骸、走り回る対空ミサイルなど間接的に事件を描くのは良いとして・・・作劇がヘタクソなのか、アート映画を気取ったせいなのか、事件の緊張感も臨場感も無ければ、感情の抑揚も無い。
 背景となる情報を観客が知らなくても、そこで起きた事を表現し伝えるのがドラマツルギーなのに、監督が伝えたかったはずの事件は明後日の方向に置いてきぼり。

 とにかくオープニングから夫婦の会話はかみ合わず、物語は進まない。

 常にヒロインはマイペース・・・というよりは、正常化バイアスが掛かっておかしくなっているのか、周りで起こっている事に無関心で、夫や弟の話を聞いておらず、なんとか事態を乗りきろうと奮闘する人間の足を引っ張るので、終始イライラがつのる。
 お腹の子を無事に産む事に必死になるどころか、将来のリフォーム計画やら壊れたベビーカーだのばかり気にして、安全で医療体制の整った場所に連れ出そうとしている夫や弟を終始無視、最前線の村に居残る・・・。
 夫と弟も、戦場の村で生きているにしては、余りにも行動が稚拙とは言え・・・家族に降りかかった災難は、全てこの人のせい。

 監督は「男性とは違う、女性的な視点」で描こうとしたらしいが・・・妊娠と出産、「普通の家庭生活を続けようとする」・・・という女性像は陳腐だし、ヒロインの描き方は余りにも愚鈍なのでは?

 人間を描けていないのを、最後のグロテスクで暴力的なシークエンスでお茶を濁されてもね・・・。
木蘭

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