いのしん

月の満ち欠けのいのしんのネタバレレビュー・内容・結末

月の満ち欠け(2022年製作の映画)
3.8

このレビューはネタバレを含みます

月が欠けてまた満ちるように、人も死んでまた生まれ変わるという輪廻転生を軸にし、それを何が何でも信じる事ができない頑固な小山内堅(大泉洋)の物語。登場人物が多く関係性が複雑だから、鑑賞しながら自分の頭の中で整理しないと話に追いつけなくなる。そういう意味で観ていて疲れる。何も考えずにぼーっと観ることはできない。相関図が欲しい。それに加えて、シーンの切り替わりで時代を行ったり来たりさせるので、時系列まで余計分からなくなる。
冒頭20分くらい、小山内堅と小山内梢(柴咲コウ)、および幼少期の小山内瑠璃(阿部久令亜)の家族仲が描かれるのだが、演技が下手なせいかすごい違和感を感じた。夫婦の愛し合っているやり取りがB級映画みたい。
堅と梢は同じ高校の先輩・後輩という設定で、堅を意識して同じ大学を受験、上京してくる梢。大学の食堂で堅から声をかけられるようにと、同郷・八戸の話題を声を大きくして友達と話すという大胆なアプローチ。青春である。片思いをして東京まで着いて来てしまう、そんな女性の可愛さが溢れ出ている。まして柴咲コウ程の美人に好かれたら幸せだろうな。
高校生になった瑠璃(菊池日菜子)が正木竜之介(田中圭)に誘拐されようとした時、痴漢だと声をあげ守ろうとし、車で逃げようとする正木竜之介の前に立ちはだかる緑坂ゆい(伊藤沙莉)。この時は瑠璃から輪廻転生や前世の話を聞かされていたのだろうが、非科学的で信じがたい話を受け入れる優しさ、これぞ友情というべき感動シーンである。
故意ではないにせよ、恋人を追いかけて結果的に正木瑠璃(有村架純)と小山内瑠璃を死に追い詰めてしまう正木竜之介がとにかく悪者にしか映らない。彼が物語を進める上で輪廻転生のキーマンなのだが、堅からしたら自分の愛する妻子を事故死に追い詰めた元凶なのだから許せないだろう。
最後、緑坂るり(小山紗愛)は、あきら君こと三角哲彦(目黒蓮)に出会えたという解釈で良いのか?三角哲彦と正木瑠璃が高田馬場駅前で雨の中再会するシーンがあったから、そういう事なのだろうが、実際は緑坂るりとハグしているという事なんだよね?現代(2007年)になってもう少し老けているであろう三角哲彦と緑坂るりのハグシーンを入れるべきだし、その方が分かりやすくて良いと思う。仮に再会できたとして何になるのか、それでどうしろというのか、と劇中で堅も言っていたが、冷静に考えて本当にその通りだと思った。
気になるのは、正木瑠璃は前世の記憶があったのか?ということと、もともと小山内瑠璃として生を受けた彼女の記憶はどこへ行ってしまったのか?ということ(体は小山内瑠璃だけど、中身は正木瑠璃ってことだもんね?)。
高田馬場駅前や早稲田松竹の1980年代が再現されていて、早稲田大学卒業生の自分としては親近感があった。長年の時を経て再会する、入れ替わったり生まれ変わったりする、複数のコミュニティやそれぞれの人生が実は相互に関係していた・絡み合っていた、みたいなタイプの映画は設定としてありがちで、非現実感もあって感情移入はしにくいのだが、嫌いじゃない。公開2日目の土曜日だったのに埋まっている席は7割くらい。自分の座席の前後左右も空いていた。夜19時からの上映ということもあったが、ヒット作となるのだろうか。