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メイク・ミー・フェイマスのNMのネタバレレビュー・内容・結末

メイク・ミー・フェイマス(2020年製作の映画)
3.2

このレビューはネタバレを含みます

タイトルや華やかなポスターがかえって不安を募らせる。
絶対不幸になるやつ。
期待を裏切らない。
ただしラストほんのちょっとだけ救いあり。
ビリーが少しだけ心から笑ったのがこちらまで嬉しくなった。
ただ自分ならラストこうなったからといって、良かったとはきっと思えない。芸能界を嫌うと思うし、社会を恨むと思う。
外見が良い人は外見を活かす仕事につかなければならないわけではない。普通の仕事をして、外見の良さはオプションとして使う程度に留めていい。
でもこのビリーならのちに大きく化けて芸能界の頼れる先輩的存在になる未来も見えなくはない。
その人のイメージが簡単に大きく変わるという意味において芸能界は恐ろしい。どの業界でも著名人みんなそう。
それを見つめる人たちが彼らの人生を変えていると思うと、無責任な中傷はいけないと改めて感じる。誰でも見られる場所の投稿であれば本人が見ていても何もおかしくない。一人の小さな呟きであっても本人には深く刺さり、無数にあれば大きな傷となる。そんな一人ひとりの想像力が問われている。少し考えれば分かることだが、あまりにも簡単に発信できてしまう現代、油断すると誰でも無配慮になり得る。

主人公がシンプルな性格でストーリーもシンプル。
外見が良いから中身も良いのだろうと決めつけられたと思ったら、外見の良いぶん悪いイメージがあっという間に固定されてしまう。
やっぱりね。そういう人に決まってる。調子に乗ってる。許せない。懲らしめてやらないと。
ただのごく普通で単純な人間なのに中身を決めつけられ、弁解の機会すらない。何の関係もない、顔も名前も知らない人たちから強すぎる思いをぶつけられる。

別に何もたくらんでないのに。
仕事をしたいだけなのに。
親孝行したいだけなのに。
もっと稼ぎたいと思ったのがそんなにいけなかったのか。
褒められて素直に受け取ったのがそんなにいけなかったのか。
番組の指示に従ったらこんなにも酷い制裁を受けなければならないのか。
何をされてもひたすら我慢し続けなければならないのか。

そういうピュアな人を追い詰めるとどうなるか。
言われた通り死んでみせるまで攻撃の手はやまなかった。

ビリーの部屋の設定が良い。
良い部屋ではあるけど最上階とかではなく、中は余計な物も飾りも何もなくがらんとしていて、そこには不釣り合いに派手なプロテインのボトルが置かれている。
まさに彼自身を表しているよう。

私たちは有名人に対して色々想像する。きっと充実した生活で、恋人や友人に囲まれて幸せなんだろうなとか。いんちきな商売をして、口八丁で人間関係を作り、一般人を馬鹿にしているんだろうなとか。
生活費もギリギリ、次の仕事すら決まっていない、背水の陣で仕事に臨んでいるとしても、知るよしもない。
想像は勝手だがそれを相手にぶつけようとするのはお門違い。ちょっと思ったことを投稿するだけのつもりが、集まると大きな暴力となってしまう。

あらすじ
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ビリーは恋愛リアリティーショーに出演して若い男女から人気に。
街を歩けば度々写真を頼まれ、それに爽やかな笑顔で快く応じる。それを彼らはすぐSNSでシェアするので強力な宣伝にもなる。
逆に言えば対応は絶対にぞんざいにできない。だがそんな地道な営業活動を大事にしている。

ビリーは常にスマホでエゴサーチ。通知もつけているようだ。みんなが喜んでいるのを見て自分も喜び自信にしていく。
人気者の彼には好意的投稿が多い。だが時々アンチが目につくと顔が凍りついてしまう。
スマホでは定時に商品PRの投稿もせねばならないので常に携帯している。動画投稿は苦手でよく失敗するが気にしないことにしている。

母親に家を買ってやるのが目標。それ以外にやりたいことは特にない。何もない自分だけど、人が笑顔になる仕事は悪くない。もっと人気になればもっと幸せになれるはず。

次シーズンも採用してもらうべく、面談が行われる。
だが彼の空っぽさが露呈してしまい、担当者らの信用は全くない。
そこでビリーは子どもの頃肥満だったことを告白、母親と仲がいいことも好感材料となった。
恋人がいないか、ドラッグはやっていないか、自制心はあるか、メンタルに問題はないか、などの確認も無事くぐり抜け、担当者はがぜん乗り気に。

前シーズンで一番距離を縮めたミシェルのブランド立ち上げパーティー。
ミシェルはビリー以上に人気で、ビジネスでも成功しようとしている。
番組でビリーがミシェルを捨てた形になったせいもあり女性の応援が多い。だが二人は番組以外で実際にデートしたことはないらしい。

彼女はビリーに気がないので、別の積極的に誘ってきた女性と帰宅。
女性は朝のうちに何やら一目散に出ていった。

そのまま昼まで寝ていると、電話に出なかったためミシェルが慌てて部屋を訪ねてくる。
ミシェルに聞いて昨夜の女性はトラップだったと知る。彼女は朝までに暴露記事を手配していた。
記事には、ビリーは見た目だけで女を選び誰とでも寝るなどと散々な書かれよう。
ミシェルは、別の仕事を紹介する、本当の自分で生きたほうがいいと勧めた。

ビリーはこの再三言われる、真の姿で生きるとか、なりたい自分になるということについて、ピンと来ていない様子。
たぶん確固たる自分というものが形成しておらず、求められる自分に近づくことしかしてこなかった。
結果、群がるファンはただのミーハーで彼のことなど本当には考えていないし、残った仕事はやたら宣伝投稿させるプロテインパウダーのみ。

ミシェルの勧めてくれたオフィスを訪ね、面談。
芸能事務所とは一味違う。
一体何を聞かれているのか、何を求められているのか、何をアピールしたら良いのか、彼には全く分からず話が噛み合わない。分かったとしてもアピールするものもない。
結果は連絡すると言われたが、何の手応えもなかった。

さらに、次の出演者は別の人ではという記事が出る。雑誌の表紙は大きく彼の写真。
実際その彼が制作会社の人物と会っているのも見かけた。自分とは全く違うタイプ。
SNSのアンチ投稿はどんどん増え、不幸や死を願うものまで。

ビリーは追い詰められていく。
タレント活動継続は危うい。ストレスも耐え難い。
しかしミシェルのような仕事は自分にはできないらしい。
ついにタレントになる前に3年勤めていた職業紹介所の知人を頼るが、ゴシップが出た彼をもう雇ってはくれなかった。
最後の望みも絶たれ絶望しながら歩き出すと、折しも母親から気遣う留守電が入っていた。

死を願う投稿は鳴り止まない。擁護の声はない。
部屋で一人泣く。頼れる友達も信頼できる恋人もいない。
薬物に手を出した。
そして部屋を片付けだし身なりを整え、母親に留守電を返し、薬を酒で流し込んだ。

次の朝は一転してビリーを称賛する投稿で溢れた。ブランド、雑誌、テレビも全て手のひらを返した。
ぐったりとしたビリーは病室でそれを知る。
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