木蘭

アダミアニ 祈りの谷の木蘭のレビュー・感想・評価

アダミアニ 祈りの谷(2021年製作の映画)
4.0
 キスト人(チェチェン系グルジア人)が多く暮らすパンキシ渓谷と、そこに関わる4人の人物に2016年から3年間、計120日に渡って密着したドキュメンタリー。

 グルジアからもロシアからも辺境の地でありながら、文明の十字路にあたる事から、様々な衝突や激流に翻弄されてきた人々の未だ癒えぬ傷と、それでも未来に向かって生きようとする力強さを、静かで美しい映像で綴っていく。
 様々な出来事が起こるとは言え、何か起承転結のある物語が描かれる訳では無いのだが・・・あの最後のシーンの何気ない人々の仕草に、希望とか愛情とかを感じて目頭が熱くなった。

 出だしのシーンで驚いたのは、グルジアの山間の村なのに、まるで信州かどこか日本の田舎に見えた事。
 日本人が撮影しているからかな・・・と思ったのだが、ポーランドの山間の村のシーンも同じ様な色合いで、もしかしたら意図的なのかも知れない。訪れた旅人は初めこそ違いが見えないのだが、やがて深く関わると目が慣れて、その土地の特性が目に付く様になってくる・・・みたいな仕掛けなのだろうか。

 同じ様に、映し出される人々は様々な言語を話している・・・トルコ系のチェチェン語、グルジア語、スラブ系のロシア語とポーランド語、英語にドイツ語、アラビア語。
 素養が無ければ皆同じ様に聞こえるのだが、少しでもとっかかりがあれば、そこから人々の関係性や置かれた状況が見えてくる。

 最低限の解説はされるので誰が見ても理解出来るが、より知識があればより多くの事がキャッチ出来る・・・良質で深いドキュメンタリー映画になっていた。
 作品中では触れられなかった事や、カットされたシーンなどについて詳細に触れているので、プログラムを買うのはマスト!


 個人的な感想だけど、チェチェン・ゲリラとしてロシア軍と戦った経験のある山岳ガイドのアボ。
 戦士として生きる事を辞めたのに、チェチェンの帽子を被って常にトレーニングを怠らない様に、今だそのアイデンティティを捨てられずに悶々としている姿にハラハラしてしまう(風貌は完全に傭兵のそれ)。
 と同時に、保守的で家父長制度の強い社会の責任在る立場でありながら、新参で外国の異教徒女性をパートナーとするのは大変な事だと思うし、本人もかなりマッチョな男なのに(相手のバルバラさんも偉いこと強そうだけど)、彼女を立てて支えている姿に深い敬愛を見るんだよね・・・。
 ポーランドで上映した時に、観客がロマンティックな物語として観たというのは仕方ないよね・・・そんな話じゃにのに!とバルバラさんがインタビューで言っていたとしても(笑)。
 撮影の後で2人は結婚したらしいが、バルバラさんの家は今だポーランドでコロナ禍で長く会えなかったとか。しかし、映画の中では1人しか出て来なかったけど、実は彼女、2男1女の母親なのか・・・凄いな。
木蘭

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