メモ魔

かがみの孤城のメモ魔のレビュー・感想・評価

かがみの孤城(2022年製作の映画)
4.1
人が優しくなれるのは、優しくされなかった経験をしてからだ。
本心からの共感は、それ以上に自分が傷付いた思い出から生じる。

[あなたは落ち込んだ人を前に、どこまで優しくなれるだろうか。]

人が助け合える理由が詰まった、優しくも過去を抉る作品だった。

学生の頃、対人関係で悩んだ時期は無かっただろうか。自分にはあった。
本気の[死ね]を誰かに放ったことは?そして言われたことは?
学ばない人間はいくら歳を重ねてもこの言葉の重みに気付かない。気付けない。
自分が傷付こうとしないからだ。誰かを傷つけることが巡り巡って自分に刃を向けることに気付けないからだ。
この物語に出てくる主人公達は、言葉の重みについて必死に理解しようとする。そして助ける言葉の重みもまた同じ様に理解していく。
人を殺すのは人間関係。しかし人を活かすのもまた人間関係なのだ。

非常にいい作品であり、特に、中でも、自分には刺さった作品だった。
過去に学校での人間関係を理由に在宅を余儀なくされた自分。そして同じ境遇を経験した方には是非見てもらいたい作品。
その辛い経験は、次の世代に生まれる新たな自分を救う芽になる。
それを気付かせてくれた。

特に心に残ったシーンはここら辺か。

[母親が学校に電話をかけるシーン]
主人公が母親に学校へ行けないことを伝えるシーン。ここで母親は行くか行かないのかはっきりしろと伝えるが、、、
まさしく自分が過去に経験したシーンと重なって心が痛かった。お腹が痛くなるのだ。学校の時間が近づくと、それに比例する様にお腹が痛くなる。頭が拒絶してる。腹痛を訴えれば危険な場所に行かなくて済むと強い念持がかかると、人間はそこに体の不調を再生する。頭が完全に学校を危険な場所と判定してる。そんなループするような思考が朝起きると頭をよぎる。学校ってそんな場所だ。少なくとも自分にとってはそういう場所だった。今思い返してもそうだ。
母親はそれを知ってもなお、息子娘を学校へ送らなければならない。学校へ行かなくなることが、その後もっと辛い経験に繋がることを知ってるからだ。だから、息子娘が辛いとわかっていながら、それでも学校へ送り出さないといけない。
このシーンでは、母親がわからずやのような描写で描かれているが、ふと自分の経験を思い返してみると、娘が学校に行かないといった直後の母親の顔は、いささか悲しそうに見えた。これをきっかけにこの子はもっと辛い道を選ぶ様になる。それを止められない自分が嫌になるような、そんな顔に自分には見えた。

[誰かに話したかったんだ]
このシーンも良かった。主人公が、他の主人公に向けて自分が学校に行けなくなった経緯を話すシーン。
話せば楽になる。なんて軽いものじゃ絶対にない。話したくない理由をちゃんと分かっていて、それでも自分から話そうと努力する姿にしっかりと目を向けてくれる。そんな人に話してやっと心から話して良かったと思えるものだ。難しいことに、この役は母親や父親の愛情では賄いきれない部分がある。
同じ境遇の人間が支えて支えられることで、初めて自分は世界で必要とされてる。そう思えることができる。それは母親や父親の一方的な愛情では賄えきれないのだ。無償の愛情故に自分の存在意義がわからなくなってしまう。
だから、このシーンで主人公が同じ境遇の友人に心を打ち明けたのは良かった。
何度も言うが、人が本心から共感できるのは、それ以上に辛い経験をしてからだ。その点この主人公達は、その資格を全員が持っている。

[ごめんね気付けてあげられなくて。一緒に戦おう。]
このシーンも良かった。特に母親が主人公を抱擁するシーンがいい。
自分を見ている様だった。
主人公側が話をする準備ができていること。そして、母親がしっかりその準備に応えてこの苦しみを一緒に乗り越えようとしてくれる姿勢が良かった。
無償の愛は主人公の存在意義提唱には結びつかないが、主人公がこの窮地から自分ではいあがろうとする時、何者にも変え難い味方になってくれる。

[たかが学校でしょ?]
このセリフがこの作品で1番ぐっときた。
自分含め経験の方はそうだと思うが、不登校になった時。自分が当たり前のことをできていないことに大きな罪悪感と重圧を感じるものだ。
だって世界の殆どが学校でできているもの。自分の世界の殆どを構成する学校に、自分がいないのはそれイコール自分が世界にいないのと同義だ。
そんな時にこの言葉が投げかけられていたら。世界の広さを知っている人間にこの言葉を言われたなら。すっと心の蟠りが遠のいていく感覚を覚えることができたかもしれない。勝手に自分で学校とは行くべきもので行かなければならないもの。と相場を決めがちだが、実際問題そんなこともないのだと。そう思える、思わせてくれる強く逞しく、そして優しい言葉だと思った。
煩わしい人間関係も、自分が良かったとか悪かったとか考える時間も、人生有限なんだからそんなくだらんことに時間を割くこと自体が不愉快だ。
だってそう。[たかが学校なんだから]

[尽力する]
お姉さんが弟の、そして主人公みんなの記憶を残す様に尽力することを弟に約束するシーン。
ここでお姉さんが仮面をはずして弟が涙するシーン。
良かった。この物語はここから始まったんだなって思えるいいシーンだった。

[北川先生とアキが重なるシーン]
正直ここのシーン周辺は涙でっぱなしだった。しっかり嗚咽した映画は久しぶり。
優しくなりたいと思っても優しくなれない人がたくさんいる。一方で優しくしかできない人もいる。差は?
過去に絶対的苦痛を経験しているかどうかだ。優しい人は、他人にそんな苦痛を与えている自分が許せなくなり結果優しくなっていく。
経験は次の世代の優しさを育てる種になるんだな。

[総評]
4.1点(おそらくもう一周したら点数また上がる)
良かった。御涙頂戴だけの作品はごまんとある。
そんな世の中で、対人関係の恐ろしさをこれ以上ないほど鮮明かつグロく表現しているこの作品は稀であるとみた。
対人関係のグロい部分と輝かしいほどの美しさを一本にまとめた素晴らしい作品。

心が叫びたがってるんだ
聲の形
あの花
に続き名作が誕生した。
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