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エドワールとキャロリーヌのgenarowlandsのレビュー・感想・評価

エドワールとキャロリーヌ(1951年製作の映画)
3.9
楽しいというレビューが多かったなか、毒味を感じてしまった理由が以下です。スルーしてください。

上流階級の妻と駆け出しのピアニストの若夫婦の喧嘩のラブコメなんだけど、ジャック・ベッケルは密かな毒を盛り込んでいるようにみえた。

キャロリーヌ役のアンヌはとってもキュートで、くるくる変わる瞳と口元、表情がチャーミング。上流階級の妻の実家に夫がプレッシャーを感じていることに無頓着。

一方、夫はピアノの才能に自信があり、野心はあるものの、披露する機会を妻の叔父の社交界でお膳立てされ、不安と期待で苛立っており、些細なことから妻を殴ってしまう。

人の表情、セリフすべてに行き届いた細やかな演出とカットで構成されているので、ベッケルがライトで楽しいだけのラブコメを作ったとは到底思えなかった。ライトな夫婦喧嘩なら殴るシーン入れずに可愛い喧嘩に作ることができるはず。

階級差と性格の違いで、この二人の関係がこの先うまくいくとは思えない。断言しちゃう。

上流階級のパーティーがこれでもかと細やかな描写で、内輪のルールを重視していることが描かれている。ルノワールの助手をしていたベッケルがルノワールの『ゲームの規則』にオマージュしたように思われる。

芸術をまとうことで、粗暴さと情熱と野心を隠し持っている夫。それに気づいたのはシカゴ出身の野心家のアメリカ人経営者。

あくまでも上流階級のパーティーを優雅に描くことで、夫が浮いているように見せている。逆から見れば、庶民が努力で芸術の才能を開花させようとしても、上流階級に気に入られなければ、評判を得ることができない。媚びることのできない夫のジレンマと才能に、イギリスの階級社会とは無縁のアメリカ人が気付く皮肉である。

狭い若い夫婦の部屋と狭い社交界だけで物語は進められるが、最後に街の様子が映し出され、社会に羽ばたく夫と、内(家庭と社交界)の中にだけいる妻の将来的暗示。これはパーティージョークで既に語られていた。室内の不気味な置物が呪い的。

夫の平手打ちもそうだが、ラスト5分もかなり野蛮だった。新婚夫婦の些細な喧嘩にはまったく見えなかった。亀裂のはじまり。

役者の背景も、夫役は元労働者の叩き上げ、劇中でドレスカットした妻役は元服飾デザイナー。
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