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グッバイ・クルエル・ワールドのnoteのネタバレレビュー・内容・結末

3.3

このレビューはネタバレを含みます

年齢もバラバラで互いに素性も知らない5人組の強盗団が、ラブホテルで秘密裏に行われていたヤクザの資金洗浄現場を襲い、1億円近い大金の強奪に成功する。強盗たちは金を山分けし、何食わぬ顔でそれぞれの日常に戻っていった。しかし、金を奪われたヤクザが現役の刑事を雇い、強盗団を本気で追い始める…。

大金に群がるクセ者(俳優)たちの波乱の物語。
目指したのは、和製タランティーノ作品か?それとも北野武作品か?
センスの良い曲の使用と、素性を知らぬ強盗団は「レザボア・ドックス」であり、もはや後がない男たちが暴力にのめり込み、破滅の道を辿るのは北野武のバイオレンス作品に近い。
それら90年代の映画の雰囲気は大いに感じ取れるクライム映画の佳作である。

アメ車から流れる粋なソウルナンバーをバックに、「こんなキャラクターたちです」と強盗団の会話で魅せるタランティーノ調のノリの良いポップな出だしだ。
一味は説教くさい年長の浜田、生真面目な元ヤクザの安西、粗雑な闇金業者の萩原、蓮っ葉な風俗嬢の美流らなど、互いに素性を知らない面々で、純朴なラブホテル従業員の大輝が手引きで、あっさりと強盗に成功。

ヤクザは金で飼っている悪徳刑事の蜂谷に一味を捜し出すよう命じる。
単純に追う追われるの追いかけっこを見せるかと思いきや、一味はバレないだろうとどこか遠くへは逃亡せず、現場近辺でそれぞれの生活に戻る。

元ヤクザの安西が別れた妻子とヨリを戻して更生を目指す様をしっとりと描いたり、元全共闘の浜田がもう一花咲かせようと暗躍する政治活動、セックスワーカーの美流と大輝の恋愛など、底辺の暮らしからの脱却という邦画的な浪花節を描くのは、意外にシリアスで庶民としては共感を呼ぶ。

キャラクターの深刻な事情を深掘りするのは北野武作品のようだが、ポップでスピーディーな冒頭からは失速して見え、アンバランスだ。

やがて、悪徳刑事の蜂谷の捜査により、尻尾を掴まれた一味は破滅に向かう。
ヤクザに取り込まれた美流と大輝のカップルによって「ナチュラル・ボーン・キラーズ」に似た再びタランティーノ調のポップなバイオレンスの潰し合い・殺し合いが始まる。
このカップルがモデル出身だけあって、役者揃いの中で人形のような異質なスタイルの良さで、ひと際現実味が無い。

題名通り、どう足掻いても浮かばれない「残酷な世界」を描くならば、アメ車や洋楽、無軌道になっていく若者のロマンスなど、ポップな要素は省いて、もっとシリアスに描くべきだったろう。
ネットの影響で価値観が混迷する2020年代の今どき、古いアメ車にステータスなど感じないだろう。
本家のタランティーノですら現在を描かない今、さすがに古臭く感じてしまう。

そんな曖昧な世界観の中、特筆すべきは安西の社会復帰を邪魔する元舎弟役の奥野瑛太の狂犬ぶりは凄まじい。
彼だけは同情できない飛び切りのクズで、シリアスになりきれない物語世界で一番リアルだ。

悪事を働いた者の因果応報という物語の展開は決して悪くない。
タランティーノのポップなノリの勢いの中で見せる、やりすぎバイオレンスのユーモアか?
北野武のユーモアの中に見せるシリアスなバイオレンスの恐ろしさか?
いずれにせよ、中途半端に見えるのは、借り物ばかりの見せ方の問題。

90年代の作品が好きだ、という作り手の気持ちは良く分かる。
当時に製作されていたなら、評価は大きく変わったかもしれない。
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