n0701

シャイロックの子供たちのn0701のネタバレレビュー・内容・結末

シャイロックの子供たち(2023年製作の映画)
3.5

このレビューはネタバレを含みます

非常に救われない話だなと思った。
基本登場人物のほとんど全員の人生の分岐点がこの物語に詰まっている。

冒頭、検査員の男が行員時代、ATMにある金から百万円を抜き取り、競馬に注ぎ込み1000万円にする。それは見事であるが、ATMに返金した際に競馬場の帯が通路に落ちてしまう。それを拾ったのは検査員の男。彼は数年後、ある支店の店長になっていた。

その支店で起こったドタバタ劇。
赤坂支店からやってきた男は、赤坂支店で業者から融資の見返りに1000万円受け取っていた。その男は業者から架空取引の融資を持ちかけられ、やむを得ず10億円を融資することとなる。
だがこの話には当然裏があった。
10億円の融資の後、利息の返済さえもせず、ものの三月で連絡がつかなくなる。最初の利息の返済に困った銀行員の男は偶然見つけた銀行内にあった金に手を付け、100万円を盗み出してしまう。そして、利息の返済に当てた。

だが、今度はこの100万円が問題となり、銀行は大騒ぎとなる。ややあって、結局のところその金は支店長と副支店長、課長、係長の4人で折半して出し合うこととなる。

だが、問題はこの10億であった。
やがて貸し倒れが判明し、赤坂から来た男は責任を問われ人事課付となる。それだけでなく、支店内に不審な金の流れや状況がないか調べられ、先の百万円の紛失と詰め合わせが判明したのである。それを詰め寄る監査員の男。だが、支店長はこの監査員がかつて競馬に金を注ぎ込んだことを脅しの材料に使い、百万円のことはなかったことにしたのであった。

さて、ここまで来て実はこの物語の主人公は、支店の係長の男なのである。エピソードを並べると、百万円を埋め合わせた1人に過ぎないが、ここから主人公としての本領を発揮する。つまり、この10億円事件の裏側に迫るのだ。

実は、10億円の融資を迫った男と、支店長は共犯だったのだ。赤坂支店の男を囲い込み、銀行から金をだまし取り、分け合っていたのだ。支店長は出世の見込みはなく、次の人事は社外への出向が決まっており、銀行への未練はなくなっていたのだ。それは支店長だけではなかった。過剰なノルマに精神をやられる男、殺伐とした職場に辞めていく女、競馬に金をつぎ込む男。銀行を勤め上げるというハードルの高さは並大抵ではないのだ。

そして悪事に手を染める男たち。
実は主人公の係長とて、連帯保証人のため2億の借金と1000万円の闇金からの取立にあっていた。係長は支店長の悪事を暴いただけでなく、事件の仕返しに建築偽装により値の付かないビルを事件の発端となった業者に売りつけたのであった。まんまと支店長と業者は詐偽の情報に釣られて係長の用意した物件を法外な金額で買い付けることとなる。

そして、係長は事故物件を売りさばけたお礼に3億円を手にする。

物語は赤坂支店から来た男の逮捕、係長の退職だけが語られ、ババを引いた業者と支店長がどうなったかは語られない。監査員だった男も係長の同僚も退職することは語られる。

この物語に参画していた者はほとんどが「最悪の結果」に終わるのだ。だが、得てして人生はそこでは終わらない。ここから苦しくも長い人生の旅路は続くのだ。ある意味これは再生の物語である。彼らは正義により全員裁かれ、罪を償ったのだ。
n0701

n0701