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シスター 夏のわかれ道のベイビーのレビュー・感想・評価

シスター 夏のわかれ道(2021年製作の映画)
3.8
早くから家を出て自立し、看護師の仕事をしながら北京の大学院へ進学する夢を追い続けるアン・ラン。疎遠だった両親が突然交通事故で亡くなってしまい、今まで会ったことのなかった6歳の弟ズーハンを引き取ることとなる。

アン・ランにとってズーハンは邪魔者。自分の貴重な時間や将来の夢を我儘な弟に奪われたくない。そう考えるアン・ランはズーハンを養子に出すことを決める…


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この作品は2021年中国で公開され、国土で社会現象になるほどの大ヒットとなったそうです。

それを聞いただけでも充分魅力的な作品に感じるのですが、僕がこの作品を観たいと思ったきっかけは、イン・ルオシン監督がこの作品を撮るにあたり、参考として是枝裕和監督の「奇跡」「海よりもまだ深く」やエドワード・ヤン監督の「ヤンヤン 夏の想い出」を何回も観直した。という記事を読んだからでした。

僕も「ヤンヤン 夏の想い出」が大好きで、あのような質感の作品を映画館で観れたらと思い足を運んだのです。

作品としては女性監督らしくとても繊細なタッチで丁寧に作られていました。終始アン・ランの心の揺れ方やズーハンとの距離感を繊細に描き、その導きがあればこそ、ラストの感動に繋がって行けたのだと思います。

それと同時に、この作品の素晴らしさはタイトルである「シスター(姉)」の一言に全てが集約されていることだと思いました。

物語全体から観れば「姉」とはもちろんズーハンから見たアン・ランのことを指しているのですが、作品の隠されたテーマとして、未だ中国に根付く家父長制のあり方や一人っ子政策の弊害などが描かれています。

「姉」として生まれたアン・ランは望まれなかった子。「弟」であれ長男として生まれたズーハンは望まれた子供。そんな背景があるが故に、アン・ランの自立心やズーハンとの距離感が生まれる根拠が色濃く映し出されています。

最近では、セリーヌ・シアマ監督の「燃ゆる女の肖像」やキム・ボラ監督の「はちどり」など、女流監督が男尊女卑社会に生きる女性像を描いた作品が見受けられるようになりました。

今作も女流監督から見た、根強く残る風潮に翻弄されながらも逞しく生きる女性たちのお話。下半身のないマトリョーシカは、男尊女卑の社会で長女として生まれ、自分の人生を半分失くしながらも弟を守る「姉」たちの象徴として描かれているように感じました。

主役のアン・ランを演じたチャン・ツィフォン。繊細な演技を見せてくれてとても素晴らしい演技でした。それとズーハンを演じたダレン・キム君も素敵な演技でした。さすが「ヤンヤン 夏の想い出」を参考にしたということもあってか、ズーハンの魅了が際立った作品とも言えます。6歳の子が無邪気に演技するシーンは微笑ましくなりますね。

あと、ついでに言えば、作中ガラスを使った鏡像演出もありましたが、あれってもしかして「ヤンヤン 夏の想い出」へのオマージュですかね?
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