幽斎

マスター ~見えない敵~の幽斎のレビュー・感想・評価

マスター ~見えない敵~(2022年製作の映画)
4.0
始めに断っておくが本作は安い学園ホラーではない。スリラーの歴史は古いが、可視化されたのは私の師匠Alfred Hitchcock監督から。だが、商業的に成功することは難しい。映画を通して社会的な抑圧の残酷さを追求する事は、映像文化の使命と言える。難しいのは洞察と娯楽の絶妙なバランス。AmazonPrimeVideoで0円鑑賞。

「Diversity」ダイバーシティ、小池知事の発言で一般化(笑)。2周遅れで日本でも多様性を考える教育機関や民間企業は増えた。私はアラサーの男性で性の対象は女性ですが、身近な例で言えばNHK「みんなの体操」。女性のみが昨年から女性2人と男性1人、ピアノ伴奏も若い男性の時も有る、って知ってました?。これを見てNHKがダイバーシティを理解してると思ったら大間違い。多様性とは決して男女比率ではない。

日本の「SDGs」Sustainable Development Goalsには、電通の利権の匂いがプンプンするので全否定の立場ですが、サステナブルと言う知見は社会面の重要なファクターとして注視してる。日本の場合は見栄ばかり気にして数値目標に囚われがちですが、アメリカの場合は学校や職場で起きてる些細な差別にも、当事者意識が根付いてる。末端で起きてる不均衡を是正するのは環境問題ともリンクするが、問題なのは一番困ってるのは、何時も立場の弱い人々、と言う現実。

本作は「マンチェスター・バイ・ザ・シー」で有名なBig Indie Picturesが製作したが、劇場公開が叶わず、ミソジニーに理解のあるAmazonスタジオが買い取り北米で配信。Mariama Diallo監督(アフリカ系美人)長編デビューだが、前作「White Devil」完全に失敗作も、その前「Random Acts of Flyness」評価を得て本作の脚本が採用され、演出も任された。主演Regina Hallはハリウッド・スターまで、あと少しだがコメディの印象が強い彼女が、シリアスな社会派に挑戦するのも見所。

Hitchcockの社会派スリラーが復権したのはレビュー済「ゲットアウト」の成功。本作もJordan Peele監督と同じく、黒人差別の可視化を描く。秀逸なのはストレートな差別では無く、文字通り真綿で首を絞める圧力が、リアルな社会の歪を浮き彫りにするが、大学キャンパスで魔女裁判と言うホラー要素もブッ混んでくる。ポイントは「自覚なき差別」、其処で問われる「Microaggression」マイクロアグレッション。アメリカの解釈では白人以外の人種、LGBTのジェンダーや障害を持つ人々を社会的に疎外。日本語で例えると「見下す」と言えばお分かり頂けると思う。

マイクロアグレッションは、京都人も真摯に反省すべき点も(笑)。出自や家柄、住む地域に依る区別は、ステルス的な「小さな無自覚」。本作は各々のスタンスで見方も変わる。加害者意識しか無ければ「此れの何処が差別なのか」訝しく思う方も居る。類似作品はレビュー済「キャンディマン」。社会派スリラーなのにホラーとして怖くないとか、解釈の語弊にも程が有るが、本作の「呪い」と同質な差別を認めたくないから都市伝説を利用、正に同じロジックと言える。

Diallo監督も認めるが、アメリカで起きたセンセーショナルな事実をインスパイア。ジョージ・ワシントン大学のジェシカ・クルーグ准教授が自らのエッセイ「真実と、私のウソによる反黒人暴力」白人のユダヤ人の血を引いてるにも関わらず黒人として生きた事を懺悔、大きな波紋を広げた。白人なのに黒人と偽った事が発覚した、全米黒人地位向上協会の支部長レイチェル・ドレザル。Black Lives Matterが叫ばれる中で「Black face」は徹底して排除された筈。

本作のテーマは「黒人の都合の良い部分だけ消費する行為」。背景にはBarack Obamaの存在も大きいが、黒人の大統領でも貧困は解消する所か、中産階級は消滅し富裕層と貧困の二極化が進んだだけ。裏切られた黒人はDonald Trump大統領に投票。タイトル通り黒人が「Master」と呼ばれる矛盾を問い掛けるが、Jordan Peele監督の洞察と娯楽の絶妙なバランスに及ばないが、難しい社会派として、Diallo監督も十分に爪痕は残せたと思う。

但し私は本作を絶賛する人は信用しない。この物語は「アメリカ」のフィクションで日本の話では無い。問題なのは無自覚にアメリカの価値観が「上」で、人種の坩堝のアメリカと単一民族の日本を同一化する考えは、とても危険だと付け加えたい。日本も正社員と派遣社員の格差を煽るが、それは政府の不作為を追及されない論点の摩り替えに過ぎない。在日朝鮮人や韓国人、中国人が共産党やれいわ新選組を支持するのは、彼らの背後には自分の頭で考えないで外国の論文をパクる無能な左巻大学教授の存在が大きい。彼らは結託して分断を煽り日本のプレゼンスを貶める。アメリカにはアメリカの問題、日本には日本の問題が在る。それが本当のマイクロアグレッションなのだ。

多様性の偽善化。本作を観て何も感じない方は、認識の語弊が伝わって無いのだと思う。
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