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特急にっぽんの3104のレビュー・感想・評価

特急にっぽん(1961年製作の映画)
3.4
コメディ寄りの作品はいつも戦前のサイレント~トーキー初期のドタバタ喜劇のテイストを(作品により分量の多寡はあれど)引用したり匂わせたりする川島雄三。今作でもそれはキッチリと伺うことができ、狭い密室であるところの特急列車という装置を使っての動きの制限された中での追いつ追われつや、窓を隔てたこちらとむこうという位置関係を利用してのサイレント風処理など、なるほどコミカルで(特に後者は)斬新だなと思わせる。東京-大阪をわずか6時間半で結ぶ夢の特急列車という当代風の舞台で繰り広げられる85分の映画の旅。展開が早すぎて外の景色など見ている暇はございません。

車内では様々な客や乗務員が様々な出来事を引き起こす。それらが有機的に結びついている部分もあるのだが、たいていはバラバラというかチグハグで散漫で、もう少し上手くまとめられなかったのかなと思う。或いはその“乱雑さ”は様々な人が乗り合わせ、様々な事情も乗せてひた走る列車そのものである・・という狙いだったのかもしれぬが。知らんけど。

個々のキャストに目を移すと、皆個性的だがどこか弾けて(描かれて)いない印象。2人の女性から言い寄られる形の主役のフランキー堺。言い寄られ受け身なのはとにかく、終始勢いや外連味が感じられない点が物足りず。艶めかしさが変な中島そのみが結果的に目立っている。あと脇役でよく見かける堺左千夫が珍しく出番が多い。そのほか1号車の政治家やヤクを打っていた女性作家や謎の老人など思わせぶりな設定の多くは回収されず。そして耳に残るは『有難や節』。

ギャグが上滑りなのは「今作はギャグ以外も全体的に上滑り」とも「そもそもこういう“ギャグ”は得手ではない」のどちらの解釈もあるが、きっとどちらも正解なのだろう。東宝時代の川島作品にありがちなテイストかもしれないが、なぜかそこは憎めない。

熱海、名古屋、京都、大阪など、当時の駅や周辺の風景がわずかであるが楽しめるのも見どころ。
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