なべ

オールド・ボーイ 4Kのなべのレビュー・感想・評価

オールド・ボーイ 4K(2003年製作の映画)
4.7
 ずっと前に観たんだけど、レビューするのに作品と向き合うのがしんどくて、少し寝かせておいた作品。
 韓国映画がおもしろい!と日本に紹介され始めた頃、レンタルで観て衝撃を受けたパク・チャヌク復讐三部作のひとつ。
 当時、DVDも買ったけど、内容がアレなのと胸糞の悪さでなかなか家で気軽にって気分にならず、結局開封せずに売っぱらってしまった。「母なる証明」なんかもそうだけど、テレビ画面で再生するには重たすぎる作品ってあるよね。だから次に観るのはスクリーンでと決めてたのだ。何度かチャンスはあったものの、エグさに尻込みしてしまい、今回やっと覚悟を決めた次第。
 あー、絵面が汚い!そうだった、この映画はなんか汚いのだ。オ・デスの体臭が臭ってきそうなくらい。ベッドシーンも汚くて、エロいのに不快になる。
 狩撫麻礼の原作漫画の孤独と絶望ってテーマを近親相姦に置き換えたのが韓国流。監禁による復讐って骨組みは同じだが、原作では極めてセンシティブだった監禁の理由が、下世話な噂話に置き換わったことで、より忌まわしく、より胸糞悪く仕上がってる。今となってはオールドボーイといえばパク・チャヌクの映画であって、原作が日本の漫画だと知らない人の方が多いのでは?
 昔観たときには気づかなかった監禁の動機も、話をわかった上で観ると、随分ひどい逆恨みだ。けど、復讐をこんな風に文学的に表現できる力量にはいたく感動してしまった。この根深い感じが邦画の連中には出せないんじゃないかと。と同時に、恨みに正当性がなくても遠慮なく、憎悪を込めて、執拗に恨んでやるって「恨」の文化に戦慄したわ。
 生まれ育った関西は在日朝鮮人が多く、知らないところで彼らの恨みを買ってないか、ちょっと自分の人生を振り返ってみたり。
 日本でも仇討ものや「この恨み晴らさでおくものか」って怪談は多々あるけど、それとはちょっと異質だよね。
 ちなみに原作では、人を見通す力を持つが故に誰も信用できず、だからこそ大成を果たした男が、唯一自分の孤独と絶望を見抜いた同級生を怖れたのが監禁の動機である。誰にも知られたくない本当の自分ってやつね。小学校の音楽室で彼の独唱に唯一主人公だけが涙するってところが起源なのね。どうよ、このプライベートで繊細な動機。日本っぽいよね。犯人の「俺の秘密を知るあいつを壊したい」とする歪んだ欲求が、自分を唯一理解している者に向けられていて、その捻れた愛憎がそこはかとなくBLっぽくもあり、こちらの方がより文学的といえるかもしれない。パク監督にこの漫画を勧めたのがポン・ジュノってところもなんか好き。
 閑話休題。
 近親相姦って「エンゼル・ハート」でも同じ文脈で使われてた素材だけど、なんか観るのがすごいストレスで、ちんこが嘔吐しそうになるんだわ。AVでは親子モノなんてのがあるくらいだから、きっと好きな人は相当数いるんだろうけど、皆さんはどうなんだろうとちょっと気になる。そうさせる姉ちゃんの怪しい色気や危うさが映像表現として申し分なくて、上手いなあと感心はするんだけど。
 観終わってからも、その後のオ・デスとミドに思いを馳せてしまうくらい高品質な映画だが、知らずに近親相姦を犯した親子に思いを巡らせたくはないんだよ、ほんとは。でもそうさせてしまうってところが名作の風格ってやつなんだろう。
 やっぱり映画館で観て正解だったけど、次に観るのは10年くらい先でいいなと思うくらいには心が抉られてたわ。
なべ

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