茶碗むしと世界地図

夜を走るの茶碗むしと世界地図のレビュー・感想・評価

夜を走る(2021年製作の映画)
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 『教誨師』に続く佐向大の2022年公開の作品である。

 中盤まではけっこうハラハラするサスペンスなのだが、それ以降はどうしちゃったの……という感じで、なんだかもうわけがわからない。佐向大は『教誨師』でもファンタジーの要素を持ち込んでいたので、ああいう展開はなんとなく予想がつくことであったのだが、それにしても全体的にあんまりまとまりがない話だと思った。
 不器用で真面目な秋本(足立智充)が罪の意識からカルト宗教的な施設に通い、自由な精神を手に入れて非常に生き生きとしている一方で、世渡り上手な谷口(玉置玲央)がどんどん深刻な状況になっていく……という対比が面白いところなのだが、中盤まで二者にあったはずのスリリングな緊張関係みたいなものがなくなっているのが問題なんじゃないかと思う。2人が共有していた罪の意識(と相違)がこの映画の重要な論点だと思うのだが、どんどん横ずれしているような印象を受けて、どうも個人的にしっくりこなかった(そういう狙いだということも理解できるのだが)。今作は構想に9年かけたらしく(本来は『教誨師』よりも先に大杉漣のプロデュース作となる予定だった)、当初の企画の眼差しからはずいぶんかけ離れてしまったんじゃないかな……などと邪推してしまったし、脚本のディベロップメントにそこはかとなく混乱を感じる。

 キャスト陣の演技が面白く、破綻していると言えるくらい強引な話を演技力でねじ伏せてくれている。玉置玲央のなんとなく油断できない感じは相変わらずいいし、美濃俣有孔役の宇野祥平のうさんくさいことこの上ないおっさんには妙な説得力がある。