Tラモーン

夜を走るのTラモーンのレビュー・感想・評価

夜を走る(2021年製作の映画)
4.0
エグ味のある邦画好きかもしれない。


郊外のスクラップ工場で働く2人の男。営業として働く秋本(足立智充)は真面目ながら不器用な性格ゆえに上司からは目の敵にされ、独身・実家暮らしで彼女も無し。作業員の谷口(玉置玲央)は妻子持ちながら自由気ままに過ごしており楽天的に見えるが、家庭では妻との会話もない。ともに居酒屋で過ごしたある夜の出来事をキッカケに、2人の人生は大きな転機を迎える。


なんだこれ、凄すぎる。
中盤以降のストーリーに触れてしまうと何もかもネタバレになるような気もするし、逆にストーリーを書いたところで何も伝わらないような気もする。

田舎のどん詰まりで暮らす、どん詰まりの男たちの地獄のような日常。それが人生を揺るがすような事件を機にどう変わっていくのか。いや、これは結局なにも変わらないってことなんだろうか。

郊外の風景とスクラップ工場のなんとも言えない郷愁がたまらない。

それでいて生々しいこの世の地獄がめちゃくちゃに詰め込まれたようなごった煮感で最後まで走り抜けるこの疾走感。

終始気分は晴れず、言葉にし難い嫌なハラハラ感と不快感がモヤモヤと残り続ける。

仕事のストレス、思うように行かない人間関係、崩壊しつつある家庭。それに加えて襲いかかる罪の意識と、断罪への恐怖。

耐えられなくなった人間がどんな風にブッ壊れていくのか。

前半全く笑顔を見せなかった秋本が笑うようになった中盤以降の恐ろしいこと。笑ってしまうような滑稽さの反面、発狂した人間のリアルを見ているようで怖かった。塞ぎ込んでどんどんと土気色になっていく谷口と対照的な秋本がとにかく恐ろしい。
彼の女装は橋本理沙(玉井らん)の代替だったんだろうか。彼が壊れた理由が現実逃避だとすると納得が行くような気もする。
そして特に終盤のあの人間とは思えない動き。足立智充の怪演に震えるしかない。

そして終盤で仄めかされる谷口の真実と妻(菜花菜)との関係性の行末。

クズはクズから変われないのか?
みんな結局自分が一番かわいいのか?

"秋本さん生きててなにが楽しいんすか?"
"なんで俺がこんな目に遭わなきゃいけないんだよ"
"なんでこうなるまで気づかないの?"
"俺はなんにも変わってないのにさあ、周りがどんどん変わってっちゃうんだよ"


もっとこうクライムサスペンスというか、昨日観た『Focus』のような作品を想像していた。めちゃくちゃ好みが分かれるというか、賛否ある作品だとは思う。
でもぼくには現代日本の格差社会を鮮烈に表現したような恐ろしい映画だった。
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