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私のはなし 部落のはなしのkogureawesomeのレビュー・感想・評価

私のはなし 部落のはなし(2022年製作の映画)
3.9
島崎藤村の『破戒』の一説が引用される。
「はじめて丑松が親の膝下を離れる時、父は一人息子の前途を深く案じるといふ風で、様々な物語をして聞かせたのであつた。」
このドキュメンタリーも何人もの「私」が様々なはなしを聞かせてくれる。

例えば、高校時代に恋愛した女性の家族に部落だとわかってから交際を反対され、板挟みになった彼女がみるみる落ち込んでいき、別れる。数年後、保育士になった彼のクラスに元カノの子供が入ってくる。大抵は元カノが子供を迎えに来たが、彼女の替わりにかつて交際に反対した彼女の親が来る時もあった。「いつも孫がお世話になってます」と笑顔で話している好好爺に、無理してでも満面の笑みを崩さずに接しながら、「あの時、反対していたんだよな」という思いが消えなかったという話。元カノともその話はしない、お互い敬語、元カノの親も覚えているかもわからない。受け持ちの子供を見るたびに思い出される記憶だったという。

最近読んだ岸政彦著『断片的なものの社会学』の一説を思い出した。
「どんな人でもいろいろな『語り』をその内側に持っていて、その平凡さや普通さ、その『何事もなさ』に触れるだけで、胸をかきむしられるような気持ちになる」。

分かるとは簡単には言えない。
それでも分かろうとしている。その為に知ろうとしている。自分が知らないこと、分からないことにも想像力を持てるようにしたい。

ポストロック/インストゥルメンタル・ロック・バンドmonoが担当したサウンドトラックも良かった。

ブルーハーツの『青空』のカバーを20歳間近の男の子たちが歌うところが印象的に使われている。

「生まれた所や皮膚や目の色で
いったいこの僕の何がわかるというのだろう
運転手さんそのバスに
僕も乗っけてくれないか
行き先ならどこでもいい
こんなはずじゃなかっただろ?
歴史が僕を問いつめる
まぶしいほど青い空の真下で」
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