くまちゃん

さかなのこのくまちゃんのネタバレレビュー・内容・結末

さかなのこ(2022年製作の映画)
3.6

このレビューはネタバレを含みます

人生の悲喜こもごもを緩やかなテンポで映し出す。沖田修一監督らしさと言うべきか。

「好き」という感情は何物にも勝る激しく強い原動力。
それに近づいた者は巻き込まれ感電し、時には人生を変えられてしまう。
ミー坊のアオリイカによって寿司職人になったカミソリ籾のように。

一途な思いは時に残酷な現実に阻まれる。好きなことを好きなだけやるには好きじゃないことの努力が必要である。
ミー坊は「サカナ」以外のものが苦手だった。それでも家族、特に母の受容とミー坊に感化された友人たちに囲まれて、社会生活に馴染めないながらも自身の「好き」を探求していく。

現在から過去へ、幼少期から青年期へ、そして自立。時間の流れ、そのジョイント部分が鮮やか。

テレビに映ったさかなクンを見る父と弟。
水族館で水槽を楽しそうに覗き込むミツコとその母モモコ。
後ろ姿のままで終わったほうが全体的にスッキリしていただろう。
それぞれの人物の後ろ姿を映し、その正体を明かすことで少々説明的過ぎた印象がある。

「男か女かはどっちでもいい」という冒頭の言葉。さかなクン役ヘのんと西村瑞季を配役した沖田修一監督の率直な考えだろう。
だがその言葉も説明的に思える。無くてもいい。
なぜならその言葉は本編をもって、のんが西村瑞季が体現しているからだ。

海に縁があるのんのキャスティングは絶妙。
魚類名を呟きながらノートに書き込むさまは海月姫を彷彿とさせる。
ギョギョもじぇじぇじぇも変わらない。
ミー坊は幼少時より良い意味で変わらなかった。のんも同じだ。さかなクンとのんは名状しがたい普遍的な共通する何かを持っているのかもしれない。
二人の笑顔は驚くほどそっくりだ。
ジェンダーを超越した配役に拍手喝采。

娘を連れてやってきたモモコとの3人での生活は、サカナ生活のミー坊にとって初めてサカナ以外の幸福であったはずだ。母子を思い、クレヨンを購入するミー坊。サカナ生活の妨げにならないようミー坊の元を去るモモコ。お互いの思いやりがすれ違った切ない場面。
モモコと並ぶ事でミー坊が男性らしく見える不思議。

エンドロールでTVチャンピオン時の映像でも挿入していただければもっと情緒が出たのではなかろうか。

ずっと面白いのに途中から睡魔が襲ってくるのはテンポのせいだろう。
推進力にやや欠けている。
2時間20分は流石に長い。
せめてNHKで全6回ぐらいの連続ドラマがちょうど良い。

ただ今作は映像作品として良質だということを明記しておきたい。

これを見ればさかなクンを、のんをますます好きになることは間違いない。
あゝ愛しきサカナ好き。

今年は宇野祥平をよく見る。
くまちゃん

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