TVで人気のさかなクンの半生をモデルにした映画という事で安易な企画だなと思って観たらとんでもなかった。脚本も手掛けた沖田修一監督の静かな間の取り方が秀逸で風格のある映画になっていた。この間の取り方の上手さはコメディシーンにも生かされており、笑いの聞こえる劇場の空気は実に気持ちが良かった。冒頭に「男か女かはどっちでもいい」という字幕が出る。しかし、作品は特にジェンダーをテーマにしている訳では無い。作品では女性であるのんが男性を演じているが作中で違和感に触れる表現は無い。「魚＝好きな事」の絶対性の前ではその他の事は瑣末な事という製作者側の宣言のように感じた。主役ミー坊役のんの演技は本当に素晴らしい。ミー坊の純粋な美しい瞳は作品全体を飲み込みファンタジックな空気感を作る事に成功している。かなり興味の偏りのある人物の人生を描いている為に社会に馴染めずに苦労する姿も描かれる。しかし、常に前向きな雰囲気を感じさせるのはのんの存在感の賜物だろう。周りの人々も素晴らしい。いつも優しく見守る母親、友人達。特に幼馴染のヒヨとモモコとの関係性は素敵だった。夢中になる事の輝きが詰まった傑作。
