うっちー

柳川のうっちーのレビュー・感想・評価

柳川(2021年製作の映画)
4.2
 チャン・リュル監督の新作『柳川』を一足早く新宿武蔵野館で。福岡の柳川市で撮影された作品。青春時代の恋の未練を引き摺る中国人兄弟、その対象であり、今は柳川にいる中国人女性、チュアン。また、兄弟が泊まる民泊の若い主でやはりチュアンに気があるらしい中山。4角関係になりそうでならない、言葉が通じそうで完璧には通じない4人を中心とした、しっとりとしていながら、どこかコミカルで、どこか切実で。今作も余韻が残りまくる素晴らしい作品だった。捲し立てる都会人の言葉はやはりどこか凶器のようなもので、それをある理由から意図的に放棄したり、日本語を学んでみたりする弟の人間性が、後からじんわりと温かさを感じさせる。チュアンに扮するニー・ニーさんのキャラは魅惑的でありながらファムファタルとは全くちがうもので素敵だし(歌も身体の動かし方も完璧)、兄の憎めない無責任さ、柳川の小料理屋の女主人(中野良子さん。上品な婦人感が素敵)、池松君演じる悩める中山君も秀逸。単なる町探訪、ノスタルジアに留まらない不思議な力強さを感じさせる。また、水郷柳川の風景は、個人的に昔住んでいた町(千葉の佐原。現在の香取市)にちょっと似ていて、かなりグッときた。こじんまりとした運河、船頭のいる舟、小さな路地、ごく普通の民家の草ぼうぼうの庭など。特別ではない小さな美しさを掬い取りまくる監督の感性に感動すら覚えた。#映画『柳川』#チャンリュル監督
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