まず、冒頭の「バナナの皮で思いっきり転ぶ」、という、よしもと新喜劇でも今はやらないツカミに、思わず「あ〜、この感じの映画かあ」と、苦笑したのだが… 。
それが、このセンゲドルジ・ジャンチブドルジというしたたかな監督に騙されたと気づくのは最後まで観終えた時。
女性が自分のやりたいことをやりたいようにして生きていくのはどこの国でも難しい。そのことをこんなふうにポップな描き方をしながら、でも作品を観ていくにつれ、それでもやりたいように生きていくべきなんだと、主役であるサロールの背を押しているような、そして観ているものを… とくにマチズモな世界の中で時々苦しむことがある女性を応援しているような気にさせてくれる、そんな物語。
主人公サロールが自分だけの世界に没入する時に流れる、モンゴルのインディーポップ・バンドの音の軽やかさ・鮮やかさが、こういうテーマの作品にありがちな重苦しさみたいなものを、まるで大陸に吹く風みたいに吹き飛ばしてくれているようでもあり。(そのシーンの時だけは実際に真横で突然バンドが演奏したり、バスの中で突然ライティングがMTV みたいになったり、斬新な演出がされる。)
個人的には(世代的に)、しょーもない脱力感満載の下ネタのシーンで、かつての日本のドラマ『毎度おさわがせします』を、思い出させられた(笑)
その、オフビートな笑いの感覚と、普遍的な… 女性が女性らしく生きること(性的なことも含めて)というテーマを、絶妙なバランスで描いている監督のセンスに、脱帽。
それから、作中、Pink Floyd の『狂気』が大事なシーンで取り沙汰され、そのことに詳しい説明は無いのだけれど、サロールが徐々にメンターとしての敬意を抱いていくカティアが、もしもかつて暮らしていたであろうモスクワで、そのPink Floyd の伝説の(ソ連崩壊直前の)コンサートを生で観ていたとしたら…… と想像すると、一ロック・ファンとして、少しだけ胸が高鳴るのだった。