CHEBUNBUN

The Happiest Girl in the World(英題)のCHEBUNBUNのレビュー・感想・評価

4.0
【世界で最も幸せそうに見える女性】
『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』日本公開で少しずつ国内のラドゥ・ジューデ監督の知名度が上がってきている。MUBIでは『UPPERCASE PRINT』の他に長編デビュー作『THE HAPPIEST GIRL IN THE WORLD』が配信されている。ということで観てみました。

「世界で最も幸せな女性」という題とは程遠い、むすっとした女性のドライブから始まる。地方出身の少女デリダは、自動車とCM出演権を獲得しブカレストへ向かう。しかし、学校の先生である母親と、病気持ちで稼げない父親がついてくる。彼らは、デリダが運転免許をもっていないこともあり車を売ろうとする。しかし、彼女は千載一遇のチャンスである車にしがみつく。

本作は、終わりなきCM撮影と、休憩時間に繰り広げられる親による干渉を交互に描く。これが実に辛辣であり、CMは幸福な女性がジュースを飲んで車を運転する夢を捉えようとする。つまり、幸せな顔をしなくてはいけないのだ。しかし、撮影は遅々として進まず、何度もジュースを飲ませられる。日が暮れても、別の日に撮影しようとはせずに撮影を続行する。幸運であるが、幸せでいることを強要されて辛い辛辣さがタイトルから映画全体に行き渡っているのだ。

ラドゥ・ジューデ監督は、『UPPERCASE PRINT』において凄惨な事件とプロパガンダ映像を交差させることで、ハリボテに取り繕ったルーマニア社会を風刺した。『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』では、雑にマスクをつけ、時にはノーマスクで街を闊歩するものが、議論の場になるとオシャレなマスクで着飾って持論を一方的にぶつける薄っぺらい仮面の存在を告発した。

その姿勢は本作でも既に確認できる。抑圧された田舎からの、親から逃れるために車にしがみつくが、そこにも幸せでいることを強要される世界が広がっている。なんて恐ろしい映画なんだと思いました。
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