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The Happiest Girl in the World(英題)
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『The Happiest Girl in the World(英題)』に投稿された感想・評価

[私はデリア・フラティア、世界で一番幸せな少女です] 90点

大傑作。ラドゥ・ジュデの長編デビュー作。"世界で一番幸せな少女"と題された映画は、全く幸せそうでない少女デリアのしかめっ面から始まる。両親の運転する車の後部座席で寝転がる彼女の身体全体から、これから起こるであろう"面倒なこと"への嫌悪感が滲み出ている。それもそもはず、ダリア一家は清涼飲料水会社の主催するコンテストで優勝し、賞品としての新車授与とCM撮影のためにブカレストへ向っているのだ。そこに、"あなたのためだから"と父親と離婚しなかったことなどを押し付けてくる母親に、自分の話を全く聴かずに新車を売る相手を探しに出た(まだ貰ってすらいないのに!)父親が付いてくるのだから面倒に感じないはずがない。両親はとても娘にやるとは思えないような実に嫌な手を使ってデリアを攻め立て、新車を売っ払おうと躍起になる。確かに、デリアは高校生で免許もないので車を使うこともメンテナンスも出来ない。実際にデリアは車が切実に欲しいというより、自らが獲得したものを奪われそうになって必死に守っているように見える。つまり、新車は親子の間にある緊張感が具現化したものであり、資本主義/消費主義によって破壊される関係性のメタファーでもある。

映画は親子喧嘩とCM撮影が同時並行で展開される。炎天下の撮影現場は素人のデリアには良い環境とは言えず、服や化粧や笑顔について散々ダメ出しをくらい、リテイクを重ねる度にしこたまジュースを飲まされて、"幸せな"笑顔を強要され、スポンサー会社重役の一声でクルーとデリアを乗せた箱舟は先の見えない迷走を繰り返すことになる。時には"美味しそうに見えない"ということでジュースにコーラをブチ込んで色を変え、全く違う商品にしてしまうことすらある。資本主義/消費主義の闇の最前線に叩き込まれたデリアは、それらに踊らさせて搾取されているようにも見えるが、それらの中心にある車を守ろうとするデリアの姿は、資本主義の一翼を担っているとも言えるだろう。
興味深いのは撮影現場が街のど真ん中にあり、休憩を言い渡されたデリアは両親から逃げるように街中へと溶け込んでいくことだろう。実在の社会の小集団をサンプリングしたことを明示する役割を果たしながら、世間知らずともとれるデリアの"成長"を首都ブカレストで描くことにも皮肉を感じる。

世界で一番幸せ!と笑顔で言いながら、裏では金に目がくらんだ両親に"車を売らないなら勘当する"とか言われてるんだから笑ってしまう。ラストのやけくそになった"もっと飲め!"三連発を含め、終始消耗させられる一作。
CHEBUNBUN

CHEBUNBUNの感想・評価

4.0
【世界で最も幸せそうに見える女性】
『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』日本公開で少しずつ国内のラドゥ・ジューデ監督の知名度が上がってきている。MUBIでは『UPPERCASE PRINT』の他に長編デビュー作『THE HAPPIEST GIRL IN THE WORLD』が配信されている。ということで観てみました。

「世界で最も幸せな女性」という題とは程遠い、むすっとした女性のドライブから始まる。地方出身の少女デリダは、自動車とCM出演権を獲得しブカレストへ向かう。しかし、学校の先生である母親と、病気持ちで稼げない父親がついてくる。彼らは、デリダが運転免許をもっていないこともあり車を売ろうとする。しかし、彼女は千載一遇のチャンスである車にしがみつく。

本作は、終わりなきCM撮影と、休憩時間に繰り広げられる親による干渉を交互に描く。これが実に辛辣であり、CMは幸福な女性がジュースを飲んで車を運転する夢を捉えようとする。つまり、幸せな顔をしなくてはいけないのだ。しかし、撮影は遅々として進まず、何度もジュースを飲ませられる。日が暮れても、別の日に撮影しようとはせずに撮影を続行する。幸運であるが、幸せでいることを強要されて辛い辛辣さがタイトルから映画全体に行き渡っているのだ。

ラドゥ・ジューデ監督は、『UPPERCASE PRINT』において凄惨な事件とプロパガンダ映像を交差させることで、ハリボテに取り繕ったルーマニア社会を風刺した。『アンラッキー・セックスまたはイカれたポルノ』では、雑にマスクをつけ、時にはノーマスクで街を闊歩するものが、議論の場になるとオシャレなマスクで着飾って持論を一方的にぶつける薄っぺらい仮面の存在を告発した。

その姿勢は本作でも既に確認できる。抑圧された田舎からの、親から逃れるために車にしがみつくが、そこにも幸せでいることを強要される世界が広がっている。なんて恐ろしい映画なんだと思いました。
Taku

Takuの感想・評価

5.0
賞品を求めてCM撮影に来た少女。撮影では幸せそうな女性であることを強いられる。休憩中には両親からひたすらにお金の工面の話を強いられる。この二つの光景を繰り返し映す本作は、資本主義のいやらしい姿をまざまざと見せつける。傑作。