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不知火檢校のstanleyk2001のレビュー・感想・評価

不知火檢校(1960年製作の映画)
4.0
『不知火検校』
1960(昭和35年)
大映

「人間、出世さえすりゃぁちっとぐらい悪いことしたって分りゃしないんだ」

安倍晋三の台詞ではない。主人公・杉の市(勝新太郎)の台詞。権力と金を握れば小さい悪事も露見しないとたかを括った杉の市は次々と悪事を重ねて盲人の公的役職の最高位「検校」に上り詰めるが、、、

劇作家宇野信夫の戯曲が原作。見事に構成された隙のないピカレスク。古今亭志ん生の人情噺「藪原検校」を下敷きにした歌舞伎台本がこの映画の原作。戯曲「不知火検校」の主人公の名前は「富の市」だが映画の主人公の名前は「藪原検校」の主人公と同じ「杉の市」。脚本家・犬塚稔さんの「これは藪原検校が元ネタですよ」という目配せかもしれない。

子供の頃から嘘をついて酒を手に入れる。成長してからは殺人、婦女暴行、恐喝、そして師匠である検校を強盗の仕業に見せかけて殺害して遂に検校になる。

まるでマクベスやリチャード三世みたいだけれど彼らと違って良心の呵責や殺した人間の亡霊に苦しめられることもなく平気の平左だ。

杉の市は女好き。武家の妻・浪江(中村玉緒)が金に困っていると聞くと五十両貸すと言ってレイプ。散々陵辱した後に金を貸して欲しければ自宅に訪ねて来いと脅す。

口実を作って杉の市の自宅を訪ねた浪江をレイプして五両の借用書を書かせる。一回五両ずつ貸すという。10回訪ねてこいと笑う杉の市。

こんな卑劣な悪人を映画で初めて見た。

白目を剥いてニタニタ笑いながら女性を舐め回す勝新太郎は気持ち悪いことこの上ない。

杉の市は自分が他人に仕掛けた罠が逆に自分を追い詰める結果になり全ての悪事が露見して破滅する。

原作の戯曲では杉の市は不敵なセリフを吐くのだが映画では台詞はなくニヤニヤ笑いながら大八車に威張りつけられて連行される逆さまになった杉の市の顔で終わる。

逆さまの男は正義や道徳に反逆する杉の市の生き方そのものだ。

杉の市は世の中を汚して壊しまくる怪物。怪物が退治されて私はホッとする。人間の姿をした怪獣を退治する映画だったんだな。
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