Monisan

夢のMonisanのレビュー・感想・評価

(1990年製作の映画)
4.5
昔、中学生の頃に体育館で観させられたんだよな。当時はよく分からないままに観たけど、葬儀の列とその音楽の印象が強く残っていた。

改めて観たけど、とても好き。
監督自身が見た夢が題材なので、支離滅裂なのは勿論それで良いんだけど、こんなアートなフィルムなのに、メジャー感というか映画としての強さが損なわれていないのが凄い。何度も書くけど、こんな事が出来る日本人監督は今はほぼいない。残念だけど。
また夢にもよるけど、下手なホラー映画より怖く感じるのは演出の凄みか。

「日照り雨」
天気雨の日は、キツネが嫁入りをするそうよ。またそれを見られるのを嫌うので見ちゃだめよ。という母の言いつけを破り、林の中で見かけてしまう少年。
この、嫁入りの列がとてもクールで良い。歩いては静止してポーズを決める、美しい。そして母親からキツネに渡されたという短刀を渡され、自分で始末をつけろ、という事ね、と。この冷たさが怖い。

「桃畑」
これも印象に残っていた夢。
桃畑の段々に雛人形のように並ぶ、桃の木の精霊達。この絵が不気味なんだけど色鮮やかで美しい。エコーのかかった声、彼らの話し方と相まって畏怖を感じる。

「雪あらし」
猛吹雪の描写が息が詰まりそうになる。怖い。仲間が寝てしまい、男も倒れてしまう。この夢から寺尾聰が私として登場。寺尾聰がこの映画の強さを格段に引き上げていると思う、素晴らしい。
現れた雪女の、雪は暖かい、氷は熱いという台詞も怖いし、怒りモードに切り替わって衣服だけ宙に舞う所も良い。

「トンネル」
これも怖い。亡くなった一等兵を諭し、トンネルを引き返させる。その後に行進の靴音が聞こえてくる所とか…その小隊の物言わぬ様子も怖かった。
寺尾聰の正直な話と説得からの、回れー右!前へ進め!靴音がなくなるまでの長いワンカット、良い。

「鴉」
ゴッホ役は、なんとマーティン・スコセッシ。美術館から絵に入り込む。川にかかるはね橋、これ作ったんだよな…なんて贅沢な。
その後の絵の中を彷徨う、私。当時の技術での合成だけど古さを感じさせないのが流石。

「赤富士」
これは東日本大震災の時に、黒澤明の予言だなんていう声もあったけど。
当時観た時は、ただ怖いシーンだなぁくらいにしか思っていなかったと思う。
ただ、監督は絶対安全だなんて言う言葉に偽りを感じていたんだろうな。
夢らしく意味のない色をつける技術なんて事になっているけど、まったく笑えない現状なのが恐ろしい。

「鬼哭」
いかりや長介。長台詞が多いけど、流石のお芝居。大きなタンポポと、ツノが生えて鬼になった元人間。ツノが痛くて泣く姿も哀れだけど、最後の鬼になりたいか、といういかりやの台詞、言い方、とても怖い。

「水車のある村」
これが観た当時、葬列が強く印象に残っていた夢。
改めて観ると笠智衆が語っている事って、まんまSDGs脳の人らにドンピシャなんだよな。自分らが学校で観させられたのも、原発話含めその辺りで推し進めた教師がいたのかもな。
でも笠智衆の話すように、生きるのは素晴らしいと思う。現代の暮らしを捨てずに両立させようとするからオカシくなるんだよな。
葬列のシーンはやはり印象的。トルコ軍の行進曲のイメージがあったが、ラッセラの掛け声が効いてるんだな。良い。

川の流れに揺れる水草に、エンドクレジットがのる。提供スチーブン・スピルバーグと。これまた凄い。

黒澤明、脚本・監督
Monisan

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