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くじけないで手紙を書いたのnadaのレビュー・感想・評価

くじけないで手紙を書いた(2011年製作の映画)
4.5
本が傷まないように、と本を鍋掴みに入れて持ち歩いているという枡野さんに思わず笑みが溢れる。これから私も真似してみよう。

自身の詩集を友人たちに渡しにいく、というそれだけですでに胸を打つシンプルな筋立てだが、それ以上に、自分の詩を誰かに読んでもらう、朗読してもらうことを映し撮っているところに、本作のさらなる魅力がある。
藝術表現は作者ひとりでは完結しない。うたは他の誰かに読まれることで新たな生命を宿す。そのとき詩は共同性(パーティー)を出現させる。この藝術の実相は、すなわち私たちの生の営みである。そう、人生も作品も、不確定であり、あらゆる偶然にみちているではないか。

「あしたになっても/あしたがある/どうなるかわからない/あしたがあるさ」

詩集の作者である枡野浩一がおかざき真里の子供たちにプレゼントを渡す公園でのシークエンスは感動的である。枡野が贈ったもののひとつが「鉛筆」であった。手渡された娘は弟たちにもその鉛筆を分け与えようとする。彼女たちはこのさき、どのような言葉を覚え、どんな文字を書くのだろう。真っ新な「明日」がここには、確かに、ある──「どうなるかわからない/あしたが」──。

枡野のシニカルでちょっぴり不機嫌な「詩」と「明日」は、この地平で反転するのだ。
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