マカ坊

幻の蛍のマカ坊のレビュー・感想・評価

幻の蛍(2022年製作の映画)
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多くの作家が観念の世界に放り投げてしまった「エモーショナル」という言葉が持つ本来の感触を、細部を積み重ねる事でひとつずつ丁寧に取り戻そうとする試みは概ね上手くいっていると思う。

最小限にとどめた劇伴と、基本的には一歩引いたカメラで「リアリティ」の輪郭をなぞりながらも、時折そんな理性的な振る舞いを払いのけ、大抵の大人が面映くなってしまいそうな「情緒」というものの気恥ずかしさを真っ直ぐに捉えることを恐れない。

何というか、いわゆる「ベタ」なお話である事は承知の上で、映画としてどう観せる事ができるかという課題に真摯さと野心を持って取り組もうとしているところに頼もしさを感じる。

役者同士の、特に子役と大人達の芝居の温度感(というか演出の濃さ?)のギャップさえ受け入れられれば、物語の衒いの無さや素朴さはむしろ今作の美点と言えるのではないだろうか。

日本のケリー・ライカート、とまでは流石にまだ言えないとしても、当時23歳(!)の伊林侑香監督がこれからこの日本を舞台にどんな作品を撮るのか、興味が湧いた。
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