ネノメタル

ディスコーズハイのネノメタルのレビュー・感想・評価

ディスコーズハイ(2021年製作の映画)
5.0
全ての音楽ファン、LIVEフリークス必見!
これは映画というジャンルの壁をぶち抜いた【LIVE復活へと誘うチケット】である!


1.Everything in its right place
本作のポスターやパンフレットのビジュアルイメージだとか、冒頭から序盤にかけて約10分ほどのコメディ調のドラマシーンを経て「音楽事務所ヤードバーズに叔父のコネで入社した瓶子撫子(へいし・なでこ)と同僚の別久(べつく)という二人のヒロインによる、売れないバンドを一丁前に仕立て上げるプロモーション奮闘記みたいな作品かな。」と軽い気持ちで観てたら大きく違った。
これは恐れ入りました!!
最高!あ、最高じゃなくて最高裁判所ね(←観たらわかります笑)!
主人公、瓶子のバンドマンでもあり、すでに他界した母との過去の回想シーンと現在とを交互に行き交いつつも怒涛のシーンから散りばめられた伏線の数々
ー御呪いのあのことば、幼馴染からもらった不気味なあのブレスレット、誕生会でのエピソード、歌手である母への憧れ、そして歌手になることへの憧れと人前で立って歌う事への畏敬の念ー
そしてクライマックスで全ての伏線がとある四文字へと集約され、あの第七藝術劇場を映画館ではないどこかへと気持ち丸ごと持ってかれるこのカタルシスはオルタナティブロックシーンの革新であり続けるRADIOHEADが20年以上前にリリースしたあの曲名に付合するのだ。


"Everything in its right place
(すべてはあるべき場所へ)" 

我々は生きている限り、学校・会社・人間関係・他人の人生・自分の人生などなど色んなものを卒業していくものだが、音楽を、映画を、演劇を、LIVEを、エンターテイメントを卒業できない全ての理由が本作にあったと言っても過言ではない。
それぐらいのどカーンと打ち上げた花火ぐらいのEnthusiasm(熱狂)がそこにあったよ、ホントあのシーンは映画史上でも最上級最高の光景だと断定したい。

2.比較論〜『辻占恋慕』
そして突如作品比較論になるが、『ディスコーズハイ』はLIVEの理想のあるべき姿を、同じく現在公開中の『辻占恋慕』はLIVEハウスにおけるリアリティにフォーカスして各々描き切った点で一見対称的、ってかむしろ正反対の思考性があるようだが前者はネタバレになるから言わんが本作キーワードである某四文字に、後者は信太の独白部分にあるように、いずれもコロナ禍以降、次々とライブイベントを行うチャンスが殺されまくっている現状への「怒り」や「苦悩」などのAngstが根底にある意味でシンクロしているような気がしてならない。
 そういえば「カサノシタ」というバンド名はの傘の下って事は「雨天」を示唆してるし、「月見ゆべし」というアーティスト名の月といえば「夜」を示唆してるしで、更に、これまた偶然の一致だけど『犬ころたちの唄』 の「深夜兄弟」にも言えて、彼らの(バンド)名からも無意識なのかもしれないが「コロナ禍さながらの太陽光なきシビアな状況」を窺わせることが分かる。それぞれブルース・ロック・フォークとジャンルはバラバラだけど、いずれも太陽光を閉ざされたコロナ禍から光を見出そうとする潜在意識の現れだったりして。現に岡本監督はTwitterのリプライにて「雨の中、人混みの中でも傘の下ってすごい孤立した空間というイメージ」で命名されたとコメントして頂いた。
でも、ここからが大事で、そこからも一筋の光明を追い求めるようなロマンチシズムをも感じたりするのだ。
そこに我々は共鳴し、これらの作品群に心を打つものがあるのだと思う。

3.ミュージシャン総出のLIVE映画
あと本作は、サーキットフェスなどのライブハウスに頻繁にいく人ならお馴染みの、後藤まりこ氏や、ぽてさらちゃん。などなど様々なミュージシャンが出てくる作品でもある。個人的には、去年の名古屋だとか今年の5月に東京中野新橋にあるライブバー、バーぺガサスにて本人のど真ん前でパフォーマンスを聴いた事のある鈴木大夢氏が売れっ子バンド「P-90」のボーカリストとして出てたのが個人的に物凄く新鮮だった。
あの実際に聴いたソロでの魂を削ぎ落とすカート・コバーンを思わせるような(ベタな例えですいません笑)ヒリヒリした歌声とはまた違う、このP-90というハードなバンドでのどこかしらクールネスを保ちつつギアをグイグイ加速していくような、スリリングなサウンドに乗っかっていくボーカリゼーションが印象的でとても良かった。端的に言えばギャップ萌えってやつかも。(あと鈴木氏も演技のパートってかセリフのシーンとかも割とあったけど彼の素の姿って、終演後お話した事あるけどライブでの鬼気迫る感じとは違ってホントあんな感じなんだよねとか思い出したり。)
あと、長年(ってほどでもないが)音楽聴いたりLIVE行ったりしてるとどこか表情ってか面構えを見ただけでロック魂を感じて、その後音源聴いて案の定間違いないって顔の人が一定数存在している。大昔だと車谷浩司さんとか、ここ数年だと鈴木実貴子さんとか、昨日のディスコーズハイ舞台挨拶で見た未遂ドロップスの「ペつさん」も例外じゃなかった。
 彼女は『ディスコーズハイ』で存在感ある役で出てて初回見た時からただならぬ何かを感じて、今日舞台挨拶での某エピソード聞いて確信に変わった。ご本人に「音源絶対聴きます」と宣言したがこれがもうドンピシャハマった。
Ado氏の例のヒット曲のカバーも良き。
超個人的には本家より好きかもしれません(笑)

 ちなみに物販についてだけど、1200円で5曲、というかなりなお得価格でP-90としての音源の入ったCDも販売している。このCDの方がサブスクより収録曲が数曲ほど多くて、サブスク未収録曲の『枯渇ごっこ』という曲が死ぬほどカッコいいからCDの方を購入しておく事をオススメする。
パンフと合わせても2000円ちょうどだし。

4.2回目の鑑賞からの光景
初回で見逃したあの伏線がどう回収され、あのミュージシャンが出てるってのを聞いててそれを確認したりとか、登場人物の心象風景をじっくりと、とかいうそういう次元の話ではなかった。
もはやこれはコロナ禍で幾多のLIVEが中止の憂き目に晒され、LIVEそのものへの楽しみ方を忘れかけていた音楽ファン達への【LIVE復活へと誘う映画】でもあるのだ。
こりゃ本作出演の全バンドの全音源聴くしかねえなと強く実感した次第。
....と言うのも正直、ここんとこライブハウスでのライブに心から楽しめない自分がいたものだ。
どこかバンド側も無理矢理テンションあげてる気がするし、かと言ってノーマスクで叫ぶ輩なども出てきては気になるし、自分のいくLIVEの演者ではいないのだが、ダイブ・モッシュを公然とやっているとこもあったりするし、あまりに事前のライブハウス側の感染対策マニュアルと違うので途中で帰った事もあった。極端な話、もうライブに行くと言う行為から引退しようかと思ったほどである。
だが、この映画は「そんな事どうだって良いじゃん。そもそもLIVEのダイナミズムっちゃあこう言うもんだよ。」と教えてくれたのだ。
もう一度LIVEとはこんなに楽しいもんなんだ、と言う原点回帰でライブハウスに足を運ぼうとか思ったりして。
あと、今回の舞台挨拶での2回目は特に全員ミュージシャンだったんだけどやっぱりこの空気感が私に合うとも思ったな。
 というのは以前さほど作品に愛着のないのがバレバレで、ネタだけやってウケとってすぐ帰った商魂逞しい某有名芸能会社の芸人ばかりが出てた某映画の舞台挨拶には死ぬほどウンザリしてたからな。
作品への溢れんばかりの愛と知的さ(←これは絶対あるよ)と(ここが重要なんだけど)どこか溢れる反骨精神とのバランスが最高なのだ。あと舞台挨拶って言えばご自分の映画の宣伝が一番重要だろうに、チラシ配りなどされてプロモーション頑張っている『犬ころたちの唄』の前田多美監督の心打たれて、舞台挨拶時に『犬ころ〜』のポスターも自ら大きく持ち上げて「同じ音楽を主題にした映画として一緒に盛り上げて行きましょう!!」とか言うノリも間違いなくミュージシャンならではってパフォーマンスで最高すぎるのだ。

【付記】
第七藝術劇場での鑑賞後、舞台挨拶の方も行われて、岡本祟監督の撮影裏話を色々と聞けたけれども彼自身、ミュージシャンだけあってとても繊細な面も覗かせつつ、かつエンタメ精神・サービス精神・ロック魂にも溢れていて、さらに笑いのツボも心得ている方で、とても好感を持った。こういう映画公開というイベントを、そして舞台挨拶というイベントを一つのムーブメントにしていこうという気概さえ感じられたものだ。これは普通の舞台挨拶にはないライブ感ある雰囲気だったな、さすがミュージシャン!
てかなんとなく『チキン・ゾンビーズ』リリース期のミッシェル・ガン・エレファントのベーシスト、ウエノコウジ氏に似てるし、と思ったのは私だけか(笑)
最後に、舞台挨拶であの『みぽりん』『コケシ・セレナーデ』の松本大樹監督がぽてさらちゃん。を大絶賛していた。
彼女は本編では割とブチ切れやすい主人公を「まぁまぁ落ち着いてくださいよ。」みたいに抑える感じの冷静なキャラクターだったので舞台挨拶での天真爛漫なキャラクターに驚いたってか笑った。

にしても松本監督の話がとにかく共感の嵐で尚且つ「そういう目の付け所があったんだ」的な見解も言っておられたのでもう一回観たいかな、てか3回以上は観たいな。 
で最後の最後。
あと、私的リクエストとしてはカサノシタによる主題歌の音源の発売(配信)と、カサノシタ初期メンバーによるミュージックビデオを全て動画サイトで公開して欲しいな、あれめちゃくちゃカオスティックで面白すぎるので。
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