カポERROR

犯罪都市 THE ROUNDUPのカポERRORのレビュー・感想・評価

犯罪都市 THE ROUNDUP(2022年製作の映画)
4.1
いや、待ってくれ。
卑怯にも程がある。
開始49分20秒、一作目でお馴染みのイス組組長チャン・イスが出てきた瞬間に、私は午後ティー鼻から吹いて床をのたうち回った。
その後、怒涛のカウントダウン「3,2,1…」からの〖金玉潰し(ブラック・エンジェルズの羽死夢の必殺技)〗である。
勘弁してくれ。
こんなもん、勝ち確ではないか。

…失敬、独り言が過ぎた。

『圧倒的なパワー』
『理不尽な所業』
『溢れ出す愛嬌』

あくまで私見だが、マ・ドンソクが本シリーズで演じるマ・ソクトを形容するワードをこうして並べてみると、なぜ彼がこれ程愛されるのかが何となく見えた気がした。
これらは正に、活気に満ち溢れた昭和の日本を象徴する言葉たちである。
つまり、我々おっさんは、リテラシー等お構い無しの言わば混沌の坩堝だったあの昭和の日本そのものをマ・ソクト…いやマ・ドンソクに投影し、エモさ・懐かしさを感じていたのではないか。
そう、正義や上下関係の名のもとに、問答無用の暴力が黙認されていた時代。
それは決して韓国ノワール・西部劇・時代劇といったフィクションの世界に限ったものではない。
わずか35年程前の”昭和”の時代までは、間違いなくこの日本に存在していた現実なのである。
その世界では、ハラスメントでさえ笑いの肥やしでしかなかったのだ。

✤✤✤

つい先日、私は⾼校時代の友人達と久⽅ぶりに飲んだ。
その中の一人、親友の大地(仮名)は、大学時代のバイト先で、一生トラウマとなる経験をしたことで知られている。
ちなみに大地は、若い頃はブラッド・ピット似のイケメンだったし、今でもイケオジである。

大地はA⼤学1年の夏休みに、マイカー購⼊の為、大学近くのガソリンスタンドでアルバイトを始めた。
面接では気にも止めていなかったらしいのだが、いざバイトを初めて見ると、店長はじめ店員が、全員マ・ドンソクの如き屈強な輩だと判明。
実はそのスタンド、店長がA大学ラグビー部のOBで、バイトは皆A大学現役ラグビー部員だったのだ。
大地は不安になり店長に「俺ラグビーとか全然やらないんですけど」と念押ししてみたが、店長曰く「あ、気にしなくていいよ。君みたいなイケメンなら素人でも大歓迎…ムフ!」と微笑まれた。
大地は、無意識に右手で⾃らの尻をガードしたらしい。
そして、間もなく大地の歓迎会が執り行われた。
ラグビー部の猛者達に一次会・二次会と飲まされ既にベロンベロンとなっていた大地。
店長「お前ら!次はいつもの店⾏くぞぉー!ついて来ーい!」
手下7名「イエッサー!」
⾏き着いた先は、さびれたカラオケ店だった。
⼊⼝をくぐると、目の前のカウンターに店員の⼥の⼦が座っている。
この娘、⾒た目は同世代で、少しケバイが南野陽⼦似の可愛い娘だ。
大地は、むさいバッファローの群れの中に天使を⾒た思いだった。
店長「カナちゃん(仮名)!相変わらず可愛いね!また騒いでもいいかなー?」
手下「いいともー!」
カナ「もぉー程々にして下さいね!この前みたいに他のお客さんの部屋に乱⼊したら警察呼びますよ!」
店長「OK牧場!」
天使に導かれるままに、野獣御⼀向は2階⼀番奥の⼤部屋に通された。
手下「カナちゃん!ビール20本!」
まだ飲むかケダモノ。
呆れたカナちゃんが部屋を出ていく。
店長「お前ら、今⽇は大地のデビュー戦だかんな!ちゃんと⼿ほどきすんだぞ!」
手下7名「イエッサー!」
デビュー戦︖
い、⼀体何が始まるんだ︖
酔いが⼀気に引いていく大地を尻目に、手下の⼀⼈が慣れた⼿つきでカラオケのリモコンを操作する。
バイト「⼊りましたぁ!」
店長「よっしゃぁ!全員起⽴!」
バイト全員が⽴ち上がる。
訳も分からぬまま、大地も⽴ち上がった。
スピーカーからイントロが流れだす…何やら懐かしい響き…。
モニターには…『⼤きな古時計』︖
断っておくが、198〇年当時、その後この曲でヒットを飛ばした平井堅など、未だ世にデビューすらしていない。
『大きな古時計』はカラオケの曲本でも『童謡』コーナーの⽚隅に記されていたマニアックな楽曲だ。
モニターに歌詞が映し出されると、手下どもの野太い声が⼀⻫に放たれた。
♪お〜お〜きなノッポの古時計〜おじい〜さんの〜時計〜♪
すると、手下連中がいきなり上半⾝の⾐服を脱ぎだした。
店長「大地!お前も脱げ!」
大地「へ︖」
考える間もなく、両サイドバックの巨⼈に無理⽮理上着をむしり取られ、気が付けば上半⾝裸になっていた。
♪おじい〜さんの〜⽣まれた朝に買ってきた時計さ〜♪
すると、今度は信じられないことに、手下共がズボンを下ろし始めた。
店長「大地!お前もさっさと脱げ!」
大地「ひぃぃぃぃぃぃ〜〜〜!!!」
先程以上に抵抗する大地に対し、更にテーブル向かい側のフォワード2名が参戦。
大地は瞬く間にトランクス1枚になっていた。
♪今は・もう・動かない〜おじい〜さんの〜時計〜♪
狂乱の⺠は厳かに…パンツを脱ぎ捨てた。
店長「大地!みなまで⾔わすな!」
大地「い、嫌ぁぁぁぁ〜~~!!!」
最後は、チーム⼀丸の巧みな連携プレイで、大地の聖なるトランクスがはぎ取られた。
大地は、まさにお爺さんの⽣まれた朝状態となった。
そして…
♪百年休まずに〜♪
バイト⼀同、各自両掌を頭の後ろ(後頭部)で組んで…
♪チク・タク・チク・タク♪
歌に合わせて腰をくねらせ、振り⼦いやチ〇コを左右にチクタク振りだしたのだった。
店長「大地!チクで右に、タクで左に腰振るんだよ!」
いや、やり⽅なんか聞いてねーから!
と、両サイドバックの太い⼿が大地の腰を掴んできた。
サイドバック「⼿ほどきするかい?ムフ」
大地「ちょ、ちょっと待った!振るよ、振りますよ!腰振りゃいいんでしょ!⾃分で振っから!触るなっ!」
両サイドの⼿を振りほどき、掌を、⾒よう⾒真似で頭の後ろに組んだ。
チクで右…タクで左…って、ちっくしょ〜〜〜!オラオラオラオラオラ〜〜〜!
完全にヤケクソの、古時計ならぬ腰振る時計がここに爆誕。
2番のサビでは完璧なチク・タクを披露した大地。
店長「流石思った通り!いや、いいぞ大地!最⾼の振り⼦だ!」
…死ね、変態!
その時、悲劇は起こった。
突然ドアが開き…
カナ「ビール20本お待たせしま…ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁああああ!」
⾎相変えて出て⾏きかけたカナちゃんの⼿を、店長が掴んだ。
店長「カナちゃん、ビール置いてってくれなきゃ!」
カナ「また、こんなことやって!信じらんない!」
店長「もう、いい加減⾒慣れたろ。あ、そうそう、うちにイケメンの新⼈が⼊ったんだ。紹介すっから……ほら、大地!こっちこい!」
う、嘘だろっ!お、俺のパ、パンツは?…
大地のトランクスは…フォワードが頭に被っていた
両サイドバックの腕が大地の両腕を絡め取り、駄々をこねる全裸イケメンをドア前に連⾏した。
カナちゃんは両⼿で顔を覆ってる。
店長「ほら、大地!挨拶せんかい!」
大地「…ど、ども。」
カナちゃんの両⼿…⼈差し指と中指の隙間が開く。
その奥から、つぶらな瞳が大地を捉えた。
その視線は大地の顔、そしてゆっくり下の⽅へ…
(や、やめてくれ、カナちゃん!そんな目で⾒たら!)
サイドバック「あっ!大地の振り⼦が!」
バイト⼀同「おぉぉぉぉ〜〜!」
大地の振り⼦は、古時計のタイトルとは相反し、若さを誇⽰するかのように、天に向かって屹⽴していた。
大地「いや、これは、その…」
♪てんご〜くへの〜ぼるお爺さん、時計ともお〜別れ〜♪
カナ「最っ低!!!」
カナちゃんは⼀声叫ぶと、⼩⾛りに部屋から出ていってしまった。
大地の恋も、お爺さんと共に天国へと旅⽴っていった。
店長「あぁ〜、大地、カナちゃんに嫌われちゃった〜!」
…て、てめぇのせいだろがっ、このド変態野郎っ!
♪百年休まずに〜チク・タク・チク・タク♪
店長「ほら、大地君、最後だから思う存分振りたまえ!」
…マジで、いつか、ぜって〜ぶっ殺す!
オラオラオラオラオラオラ~~~!!!
そそり⽴つ大地の振り⼦は、腰に合わせて荒れ狂う『メトロノーム』と化していた。

お馴染みの大地の思い出話で爆笑する一同。
マサやんが大地に「今でもカミさんの前で振り子振ってんのか?」と聞いた。
すると大地は遠い眼差しでこう口ずさんだ。
「♪今はもう動かない その時計〜♪」

✤✤✤

私は決して昭和の時代信奉者ではない。
むしろ大地同様、トラウマばかり植え付けられた被害者だ。
(名誉のために付け加えるが、私は決して振り子は振っていない…と言うか振るほどのモノを有していない。←むしろ不名誉)
だが、だからこそ、マブリーの無敵且つ理不尽且つ無慈悲な鉄拳制裁…そこにシビれる!憧れるゥ!のである。
特に本作は前作で散見されたマ・ソクトのクズっぷりがなりを潜め、より強い正義感とコミカルな愛嬌がフォーカスされているところに好感を持った。
散々暴れまくった後、我に返り「まいったな、また大ごとになってる…すんません」と言ってそそくさと現場から退散するマ・ソクト。
こんな庶民的なヒーロー、他にいるか?
文句なしで最高ではないか。
そんなマ・ソクトの魅力満載の本作。
未見の方は是非一度御覧頂きたい。
『犯罪都市 THE ROUNDUP』は現在U-NEXT、Hulu、FOD、Netflixにて配信中。
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